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結晶中トリウム229クエンチ解明 原子核時計の初期化へ

PRL論文掲載

開催日:1月8日

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PRL論文掲載
何が新しくわかったの?
高輝度X線照射で結晶中のトリウム229アイソマーの脱励起(クエンチ)が能動的に加速され、温度依存性と結晶ルミネッセンスの相関から励起電子の拡散と核–電子相互作用がクエンチの主要機構であることを示した点が新しい成果です。
これで原子核時計の実用化に近づくの?
核状態の初期化(リセット)機構の理解が深まり設計指針や小型化の基礎が整ったが、実用化には検証、安定化や読出し技術など追加の研究と工学的開発がまだ必要です。

X線で制御された結晶中トリウム229アイソマーの脱励起とその意義

国立大学法人岡山大学と高輝度光科学研究センター(JASRI)、京都大学、理化学研究所、大阪大学による国際共同研究グループは、結晶中に埋め込んだトリウム229(229Th)原子核の準安定励起状態(アイソマー)に対して、高輝度X線(大型放射光施設SPring-8のBL19LXUを使用)を照射することで脱励起(クエンチ)を能動的に加速させる現象を詳細に解析し、その物理機構の解明に前進しました。

本研究は、固体型原子核時計の動作に不可欠な「原子核状態の初期化(リセット)」過程を担うクエンチ機構の理解を深めるものであり、将来的な高精度原子核時計の実現に向けた重要な基礎知見を提供します。論文はPhysical Review Lettersに掲載されています(2026年1月8日掲載)。

結晶中トリウム229原子核アイソマーのクエンチ機構の解明に前進~固体原子核時計のリセットは電子が担う?~〔岡山大学, 高輝度光科学研究センター, 京都大学, 理化学研究所, 大阪大学〕 画像 2

実験の構成、測定手法、得られた温度依存性の結果

実験はSPring-8(BL19LXU)で高輝度X線を用い、CaF2結晶中に埋め込んだ229Thアイソマーに対してX線照射を行い、生成されたアイソマー数や脱励起の進行を温度条件を変えて測定しました。

具体的には、室温付近(36℃)と低温(-120℃)の2条件を比較し、X線照射時間に対する生成アイソマー数増加の挙動や、結晶発光(ルミネッセンス)の温度依存性との相関を解析しました。図1には(a)トリウム229準位図(基底状態と励起状態の関係)、(b)X線照射時間に対する生成アイソマー数増加の測定データ(36℃と-120℃の比較)が示されています。

結晶中トリウム229原子核アイソマーのクエンチ機構の解明に前進~固体原子核時計のリセットは電子が担う?~〔岡山大学, 高輝度光科学研究センター, 京都大学, 理化学研究所, 大阪大学〕 画像 3

主要な観測結果

解析の結果、次の点が明らかになりました。X線照射による脱励起(クエンチ)が温度依存性を示し、結晶発光の温度依存性と明確な相関があることが確認されました。

この温度依存性とルミネッセンスの相関から、脱励起を引き起こす主体は局所的な原子核だけではなく、励起された電子の挙動が重要であることが示唆されました。低温と室温での比較により、励起電子の拡散挙動がクエンチ効率に影響を及ぼすことが実験的に支持されました。

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測定で使用した観測・解析項目

  1. X線照射時間に対する生成アイソマー数の増加測定(36℃と-120℃の2条件)
  2. 結晶発光(ルミネッセンス)の温度依存性測定とそのスペクトル解析
  3. データの温度変化に対するモデルフィッティングによる機構検証
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クエンチ機構モデル:励起電子の拡散と核-電子相互作用

本研究では、クエンチ現象を説明する物理過程として、励起された電子が結晶中を拡散し、トリウム原子核と相互作用することで核の脱励起を促進するというクエンチ機構モデルを構築しました。

このモデルは実験データの温度依存性や結晶ルミネッセンスとの相関を説明でき、特に電子の拡散長や散逸過程がクエンチ効率を決定する重要なパラメータであることを示しています。

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モデルの要点と理論的説明

  • 励起電子の生成:X線照射により結晶内で電子励起が生じる。
  • 電子拡散:励起された電子が結晶格子中を拡散し、その拡散挙動は温度に依存する。
  • 核-電子相互作用:拡散電子がトリウム229原子核近傍に到達すると、エネルギー移転が生じ、核の脱励起(クエンチ)を促進する。
  • 温度依存性の起源:温度上昇により電子拡散や格子振動が変化し、クエンチ効率が変動する。

以上の要素を組み合わせた定量モデルにより、実験で観測された温度依存性や結晶発光との相関を再現しうることが示されました。

結晶中トリウム229原子核アイソマーのクエンチ機構の解明に前進~固体原子核時計のリセットは電子が担う?~〔岡山大学, 高輝度光科学研究センター, 京都大学, 理化学研究所, 大阪大学〕 画像 7

研究体制、論文情報、資金提供と連絡先

本研究は多機関連携の国際共同研究として実施され、参加した主な研究者と所属は以下の通りです。研究チームには岡山大学、TU Wien(ウィーン工科大学)、AIST、RIKEN、OSAKA大学、京都大学、JASRI(高輝度光科学研究センター)、RIKEN SPring-8 Centerらが含まれます。

主要な研究者(論文著者表記)と所属は以下のとおりです。

Ming Guan1
Research Institute for Interdisciplinary Science, Okayama University, Okayama, Japan.
Michael Bartokos2, Kjeld Beeks2, Adrian Leitner2, Martin Pimon2, Martin Pressler2, Fabian Schaden2, Thorsten Schumm2, Tomas Sikorsky2
Institute for Atomic and Subatomic Physics, TU Wien, Vienna, Austria.
Hiroyuki Fujimoto3, Tsukasa Watanabe3
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), Tsukuba, Japan.
Hiromitsu Haba4, Yudai Shigekawa4, Atsushi Yamaguchi4
RIKEN(複数センター)、Wako等。
Yoshitaka Kasamatsu5
Graduate School of Science, Osaka University, Toyonaka, Japan.
Shinji Kitao6, Makoto Seto6
Institute for Integrated Radiation and Nuclear Science, Kyoto University, Kumatori-cho, Japan.
Kenji Tamasaku8
RIKEN SPring-8 Center, Sayo-cho, Sayo-gun, Hyogo, Japan.
Yoshitaka Yoda7
Japan Synchrotron Radiation Research Institute (JASRI), Sayo-cho, Sayo-gun, Hyogo, Japan.
その他の共同研究者
吉村浩司(岡山大学)、吉見彰洋(岡山大学)、依田芳卓(JASRI)ほか多数(論文の著者一覧と脚注を参照してください)。

論文情報は以下です。

論文名 X-ray-induced quenching of the 229Th clock isomer in CaF2
掲載誌 Physical Review Letters
掲載日 2026年1月8日
DOI 10.1103/75bb-thn7
URL https://journals.aps.org/prl/accepted/10.1103/75bb-thn7
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研究資金

本研究は以下の研究助成・支援により実施されました。

  • 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP21H04473, JP23K13125, JP18H04353, JP24K00646, JP24H00228, JP24KJ0168, JP25K17413, JP25H00397)
  • 戦略的創造研究推進事業(CREST: JPMJCR24I6)
  • EU-ERC(No.856415(nuClock))
  • Austrian Science Fund
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問合せ先(本件に関する連絡)

岡山大学 学術研究院 先鋭研究領域(異分野基礎科学研究所)准教授 吉見彰洋

〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1 岡山大学津島キャンパス
TEL:086-251-8499 FAX:086-251-7811
ウェブ:https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1484.html

SPring-8/SACLAに関する問い合わせ:高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786

産学官連携等の問い合わせ:岡山大学研究・イノベーション共創機構 産学官連携本部
TEL:086-251-8463 E-mail:sangaku@okayama-u.ac.jp

研究機器共用に関する問い合わせ(チーム共用)
TEL:086-251-8705 E-mail:cfp@okayama-u.ac.jp

スタートアップ等の問い合わせ(スタートアップ・ベンチャー創出本部)
E-mail:start-up1@adm.okayama-u.ac.jp

図の説明、関連資料、参考リンクと本研究の意義の整理

プレスリリースには実験で得られた図が含まれており、主要な図は以下のように説明されています。図1は(a)トリウム229のエネルギー準位図(基底状態と励起状態の関係)と、(b)X線照射時間に対する生成アイソマー数増加の測定データ(36℃と-120℃の比較)を示しています。

これらの図は、X線照射によるクエンチの加速効果とその温度依存性を視覚的に示すものであり、実験データから提案されたクエンチ機構モデルの妥当性を支持する重要な証拠となります。プレスリリースの元資料と詳細は岡山大学のプレスPDFで入手可能です。

プレスリリース原文(PDF)
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r7/press20260109-1.pdf
関連リンク(岡山大学)
https://www.okayama-u.ac.jp/
PR Timesの関連情報
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002386.000072793.html

本成果は、固体型原子核時計の小型化・可搬化に向けた技術的基盤を提供するとともに、衛星測位システムや地球重力場観測、暗黒物質探索、基礎物理定数の変動検証などの基礎研究・応用研究に貢献すると整理できます。

項目 内容
発表機関 岡山大学、JASRI(高輝度光科学研究センター)、京都大学、理化学研究所、大阪大学 他
発表日(プレス) 2026年1月24日 22:25
論文掲載 Physical Review Letters(2026年1月8日掲載)
論文名 / DOI “X-ray-induced quenching of the 229Th clock isomer in CaF2” / 10.1103/75bb-thn7
実験施設 SPring-8(BL19LXU)
主要成果 X線照射による結晶中229Thアイソマーの脱励起(クエンチ)が加速される現象の温度依存性を明確化し、励起電子の拡散と核との相互作用に基づくクエンチ機構モデルを構築
温度条件 室温(36℃)および低温(-120℃)で比較測定
寄与分野 固体原子核時計のリセット機構、時間基準技術、基礎物理学
研究資金 JSPS科研費、CREST(JPMJCR24I6)、EU-ERC(No.856415 nuClock)、Austrian Science Fund ほか
問い合わせ 吉見彰洋(岡山大学) TEL:086-251-8499 E-mail:sangaku@okayama-u.ac.jp

上の表は本プレスリリースの主要項目を整理したものである。研究の詳細、図やデータ、元資料については岡山大学のプレスページおよび論文本文を参照することができる。研究チームの報告は、結晶中における核励起の制御と初期化(リセット)に関する理解を深め、原子核時計技術に関する次の段階の研究設計に資するものである。