7月7日発表 世界初の省エネエッジAIチップ開発に成功
ベストカレンダー編集部
2025年7月7日 15:00
エッジAI実証チップ開発
開催日:7月7日
世界初のCMOS/スピントロニクス融合技術を活用したエッジAI向け実証チップの開発
2025年7月7日、NEDOは「省エネAI半導体及びシステムに関する技術開発事業」において、エッジ領域に適した高性能かつ省エネルギーな人工知能(AI)半導体デバイスの開発を進めてきました。このたび、国立大学法人東北大学と株式会社アイシンが共同で、磁気抵抗メモリ(MRAM)を大容量搭載した「CMOS/スピントロニクス融合AI半導体」を開発しました。この開発により、エッジAI向けアプリケーションプロセッサを搭載したチップの実現が世界で初めてとなりました。
開発した実証チップは、動作時および待機時の電力を大幅に低減し、起動時間の短縮が可能です。実証システムでの検証結果によれば、従来に比べてエネルギー効率が50倍以上、起動時間は30分の1以下の改善が確認されました。この成果は、今後の車載機器や他の幅広い分野での応用技術開発に寄与することが期待されています。
エッジAI向け実証チップの概要
近年、情報処理に用いるデバイスの高度化やAIを用いたさまざまな産業の創出が進む中、ネットワーク上のデータ量は爆発的に増加しています。このため、サーバー集約型からエッジ側への情報処理と電力の分散が不可欠です。しかし、エッジ側には供給できる電力、装置の大きさ、利用環境などの制約があるため、エッジ用途に適したデバイスの早期実現が求められています。
NEDOは、このような背景から本事業を実施し、東北大学、アイシン、日本電気株式会社と共同でCMOS/スピントロニクス融合技術によるAI処理半導体の設計効率化と実証を進めてきました。CMOSは金属酸化膜を用いた半導体トランジスタ構造で、スピントロニクス技術から生まれたMRAMは不揮発の特徴を持ち、CMOS半導体製造プロセスに融合可能です。
開発の背景と目的
本事業の目的は、エッジAI向けの高性能半導体デバイスを早期に実現することです。東北大学はMRAMを用いた自動設計環境の構築や設計ツールの高度化を進め、アイシンはこのAIアクセラレータとアプリケーションプロセッサ、大容量MRAMを統合した実証チップを開発しました。
この実証チップにより、起動時の時間を極めて短縮し、メモリへの書き込みや読み出しにかかる時間と電力を大幅に削減することが可能となります。これにより、さまざまなAI応用の場面で新しいユーザー体験やメリットが生まれると考えられています。
実証チップの特長と成果
開発した実証チップは、台湾積体電路製造(TSMC社)の次世代16nm FinFETプロセスに対応しており、MRAMマクロを32Mbyte搭載しています。アプリケーションプロセッサにはArmⓇ CortexⓇ-A53デュアルコアとAIアクセラレータが搭載されています。
このチップは、内部メモリと重みメモリにMRAMを用いることでニアメモリ・コンピューティング構造を実現し、外付けFLASHメモリのバス帯域不足を解消しました。また、高速起動に必要なコンパクトOSも開発され、OSを実証チップ内部メモリに内蔵することが可能となりました。
エネルギー効率と起動時間の改善
実証チップを搭載したシステムでの測定結果は以下の通りです。
| 項目 | 従来技術 | 開発技術 | 改善率 |
|---|---|---|---|
| エネルギー効率 | 4.7624 J | 0.0942 J | 50倍以上 |
| OS起動時間 | 2535.3 ms | 65.7 ms | 30分の1以下 |
これらの結果から、CMOS/スピントロニクス融合技術により、エネルギー効率が大幅に改善され、OS起動時間も大幅に短縮されたことが確認されました。これにより、エッジAI向けの実用化が一層進むことが期待されています。
今後の展望と応用
NEDOは今後もエッジ領域での分散コンピューティングの実現に向けて取り組み、AI処理におけるエネルギー効率改善とその社会実装を進めていきます。東北大学は半導体の設計効率向上と低消費電力AI半導体技術の高度化に向けた研究開発を推進し、アイシンはこの研究成果を実用化に結びつけるため、車載機器や幅広い分野での応用製品開発に取り組む予定です。
この記事では、NEDOが発表したCMOS/スピントロニクス融合技術を活用したエッジAI向け実証チップの開発について詳述しました。この技術は、エネルギー効率の改善や起動時間の短縮など、今後のAI技術の進展に寄与する重要な成果であると考えられます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開発者 | NEDO、東北大学、アイシン |
| 技術名 | CMOS/スピントロニクス融合技術 |
| 実証チップの特長 | エネルギー効率50倍以上、起動時間30分の1以下 |
| 今後の応用 | 車載機器、幅広い分野での応用製品開発 |
このように、エッジAI向け実証チップの開発は、今後の技術革新に向けた重要な一歩となるでしょう。
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