2025年8月7日発表 日本の国石ヒスイから新鉱物「アマテラス石」発見

アマテラス石発見

開催日:8月7日

アマテラス石発見
アマテラス石って何が新しい鉱物なの?
アマテラス石は日本の国石ヒスイから発見され、化学組成と結晶構造が既存の鉱物と明確に異なる新種の鉱物です。特に二面性を持つ結晶構造が特徴です。
なんでアマテラス石って名前なの?
名前は日本神話の天照大神から取られています。ヒスイの国石としての象徴性と、鉱物の結晶構造の二面性が神霊の二面性に重なることから命名されました。

新鉱物・アマテラス石の発見

2025年8月7日、リガク・ホールディングス株式会社より、日本の国石「ヒスイ」から発見された新鉱物についてのプレスリリースが発表されました。この新鉱物は日本神話に登場する天照大神の名を冠し、「アマテラス石(学名:Amaterasuite)」と命名されています。アマテラス石の発見は、ヒスイに対する新たな視点を提供し、結晶学的な理論と観察をつなぐ重要な実例として注目されています。

アマテラス石は、東京大学物性研究所の浜根大輔技術専門職員、山口大学大学院創成科学研究科の永嶌真理子若手先進教授、高輝度光科学研究センターの森祐紀研究員、京都大学大学院理学研究科の下林典正教授、リガク・ホールディングスのグループ会社である株式会社リガクの松本崇グループマネージャー、アマチュア鉱物研究家の大西政之氏と田邊満雄氏からなる研究チームによって発見されました。アマテラス石は国際鉱物学連合の新鉱物・命名・分類委員会によって正式に承認されています。

新鉱物・アマテラス石の発見 画像 2

発表のポイント

  • 日本の石文化を象徴する国石「ヒスイ」から発見された新鉱物。
  • 日本神話に登場する天照大神の名を冠して「アマテラス石」と命名。
  • ヒスイに対する新たな視点を提供し、結晶学的な理論と観察をつなぐ実例としても注目。

研究の背景

ヒスイは、その堅牢で緻密な性質から道具として、またその美しさから装飾品や宝石として古代より人々に用いられてきました。日本におけるヒスイの利用は、世界最古のヒスイ文化としても知られています。鉱物・岩石学的に見ると、ヒスイはプレートの沈み込み帯でのみ形成される希少な岩石です。

こうした文化的・科学的な重要性から、ヒスイは2016年に日本鉱物科学会により日本の「国石」に選定されました。ヒスイは主にヒスイ輝石という鉱物で構成されていますが、ヒスイの中に含まれる鉱物はストロンチウムやチタンに富む組成を示すことが知られています。このような特徴に着目した研究によって、これまでにヒスイから蓮華石や松原石が新鉱物として発見されてきました。

アマテラス石の特徴

新種の鉱物として認定されるには、既知の鉱物とは化学組成または結晶構造、あるいはその両方において明確な違いが求められます。アマテラス石は、化学組成・結晶構造のいずれにおいても新規性を有しており、基準を十分に満たしていたことで新鉱物として承認されました。

アマテラス石の理想化学組成は「Sr4Ti6Si4O23(OH)Cl」であり、ストロンチウムとチタンに加え、ケイ素、酸素、水素、塩素が主成分となります。この元素比率は、これまでに報告されたどの鉱物にも見られない独自のものであり、全く新しい形成反応の存在を示唆しています。

結晶構造の解析

アマテラス石の結晶構造は、大型放射光施設SPring-8のビームラインを用いた粉末X線回折実験と、山口大学のリガク社製ハイエンド単結晶構造解析装置により詳細に解析されました。その結果、アマテラス石の結晶構造には特筆すべき特徴があることがわかりました。それは、単位胞に異なる2種類の構造要素を同時に含むという二面性をもつことです。

このようにアマテラス石は、新鉱物としての鉱物学的な価値に加え、ヒスイに対する新たな視点を提供し、結晶学的な観点からは理論と観察の橋渡しとなる重要な実例ともなり、多方面にわたって意義のある存在です。

命名の経緯

アマテラス石は、日本の国石であるヒスイから発見された新鉱物であり、二面性を示す特異な結晶構造を有しています。その命名にあたっては、日本神話に登場する天照大神の名が候補として挙げられました。天照大神は日本を象徴する存在であり、象徴性という点で日本の国石であるヒスイと重なります。また、神霊が持つ「荒魂」と「和魂」という二面性は、鉱物に見られる結晶構造の二面性に通じます。

こうした要素を総合的に踏まえ、日本の石文化への敬意もこめて、新鉱物は「アマテラス石(学名:Amaterasuite)」と命名されました。この名称は、国際鉱物学連合の新鉱物・命名・分類委員会により正式に承認されています。

研究者情報と論文情報

本研究に関与した研究者は以下の通りです:

東京大学物性研究所
浜根 大輔 技術専門職員
山口大学大学院創成科学研究科
永嶌 真理子 若手先進教授
高輝度光科学研究センター
森 祐紀 研究員
京都大学理学研究科
下林 典正 教授
株式会社リガク
アプリケーションラボ ライフサイエンスグループ 松本 崇 グループマネージャー
アマチュア鉱物研究家
大西 政之、田邊 満雄

本研究成果は、日本鉱物科学会が発行する学術雑誌「Journal of Mineralogical and Petrological Sciences」において、2025年8月7日に出版されます。

論文の詳細は以下の通りです:

雑誌名 Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
題名 Amaterasuite, Sr4Ti6Si4O23(OH)Cl, a new mineral from jadeitite, a representative stone of Japan
著者名 Daisuke Nishio-Hamane*, Mariko Nagashima, Yuki Mori, Masayuki Ohnishi, Norimasa Shimobayashi, Takashi Matsumoto, Mitsuo Tanabe (* : 責任著者)
DOI 10.2465/jmps.250420
URL https://doi.org/10.2465/jmps.250420

研究助成と用語解説

本研究は、文部科学省(MEXT)先端研究基盤共用促進事業による共用研究設備を使用し、日本学術振興会補助金によって支援されています。

以下に、用語の解説を示します:

  • 新鉱物の審査:鉱物の新種は論文での発表に先立って、国際鉱物学連合の新鉱物・命名・分類委員会において審査され、その承認を得る必要があります。
  • 沈み込み帯:ふたつのプレートが衝突して、片方が片方の下に滑り込む場所です。
  • 国石:日本で広く知られ、国内に産する美しい石であり、鉱物科学のみならずさまざまな分野でも重要性を持つ石です。
  • 蓮華石と松原石:いずれも、かつて糸魚川産のヒスイから発見された新鉱物です。
  • SPring-8:兵庫県にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設です。

以上の内容を通じて、アマテラス石の発見が日本の鉱物研究においてどれほど重要であるかが明らかになりました。アマテラス石は、ヒスイに対する新たな視点を提供し、結晶学的な観点からも注目される存在となっています。

発見された鉱物 アマテラス石(学名:Amaterasuite)
発見者 浜根大輔、永嶌真理子、森祐紀、下林典正、松本崇、大西政之、田邊満雄
発表日 2025年8月7日
発表雑誌 Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
化学組成 Sr4Ti6Si4O23(OH)Cl

このように、アマテラス石の発見は日本の鉱物研究において重要な意義を持つものであり、今後の研究にも大きな影響を与えることが期待されています。