住み込みルポで描く『クルド人問題』の実像

クルド人問題刊行

開催日:8月20日

クルド人問題刊行
この本って結局何を伝えたいの?
著者が埼玉・川口に住み込み取材したルポで、ケバブ店や解体業者など生活圏で聞いた多様な声から「多文化共生」の理想と現実のギャップ、誤解や摩擦の構図を明らかにします。
実際に危なかったの?住んで取材して問題はあったの?
取材中に過積載トラックに追跡される出来事が発生し、著者は逃げ切りました。単発の危険体験はあるものの、本書は現場の不安や緊張を伝えることを目的にしています。

川口市に「住んで」取材するという手法が明らかにした現場の温度

2025年8月20日午前11時、株式会社新潮社は『おどろきの「クルド人問題」』(新潮新書)を刊行する旨のリリースを発表した。本書は著者・石神賢介氏が埼玉県川口市に実際に住み込み、現地の生活圏を拠点に取材を進めたルポルタージュである。プレスリリースは発売日を同じく2025年8月20日と明記している。

取材という行為を現場の一住人として行う「超体感型」の手法は、現地の〈温度〉を捉えることを目的としている。取材の出発点や日常の観察、偶発的に発生した事件までを通して、報道や世論で一括りにされがちな「クルド人問題」の実態を掘り下げている点が、本書の特徴である。

取材開始の経緯と拠点

編集部からの提案は端的だった。「埼玉県川口市で暮らして、クルド人を取材しませんか?」という問いかけに対し、石神氏は西川口駅前のウイークリー・マンションを拠点とする形で取材を開始した。編集部とのやり取りには以下のような問答が含まれている。

編集部の問い
「埼玉県川口市で暮らして、クルド人を取材しませんか?」
石神氏の懸念
「危険なこととかありませんか?」
編集部の返答
「わかりません。危険だと言う人もいれば、そんなことは一切ないと言う人もいますから。だからこそ住んでみての率直な感想が知りたいのです」

こうした開始時点での不確実さが、現場での観察に一層の緊張感を与えたことがうかがえる。西川口駅前はどこか昭和を感じさせる街並みで、当初の取材は平穏に始まった。

現地で起きた出来事――過積載トラックの追跡と逃走

平穏な取材は長くは続かなかった。取材中、石神氏が過積載と見られるトラックの写真を撮影した直後、ドライバーに怒りを買い、トラックに追跡されるという出来事が発生した。石神氏は「不用意に撮影したからか。気づけば僕は過積載のトラックに追いかけられていた……。」と記している。

追跡は危険な状況を生んだ。追跡された経験を通じて、現地の住民が感じる不安や緊張感が具体的に伝わってくる。石神氏は映画『激突!』を想起させる恐怖を体験しつつも、何とか追尾を振り切って逃走に成功したと報告している。

市内の実生活を紐解く:訪れた場所と話を聞いた相手

石神氏は川口市内を縦横に駆け回り、単に当事者同士の対立を追うのではなく、日常の接点を持つ場所を中心に取材を行った。ケバブ店、クルド人御用達の朝食食堂、シーシャバー、解体業者、教育現場など、生活と労働が交差する場へ足を運んでいる。

取材対象は幅広い。子ども、住民、市議会議員、そして市長までを含む多様な立場の声を集め、均衡を保ちながら取材を進めることに努めた点がレポートの特徴だ。

  • 訪問先:ケバブ店、朝食食堂、シーシャバー、解体業者、教育現場(学校)
  • 聞き取り対象:クルド人当事者、一般住民、子ども、地域の市議会議員、市長

これらの現場で得られた情報は、単なる断片的な出来事の集合ではなく、暮らしの中で生じる摩擦や誤解、制度の隙間を浮かび上がらせる役割を果たしている。

取材では「反でも親でもないフェアな立場」を意識しているという点が繰り返し述べられており、感情論に偏らない事実の積み重ねが重視されている。

現場で見えた対立の構図と日常の接点

取材を通じて明らかになったのは、政策的な議論やメディアで表面化する対立とは別に、「日常」で起きている細かな摩擦である。言語や文化の壁、雇用形態の違い、路上での振る舞いに対する住民の受け止め方の差などが積み重なり、軋轢が生まれている。

一方で、ケバブ店や食堂といった生活圏では相互依存の関係も見られ、単純な敵対関係だけでは説明できない現実がある。

  1. 制度の不備や情報不足が誤解を拡大すること
  2. 労働環境や生活の密度が摩擦を生むこと
  3. 日常の接点が相互理解の起点になり得ること

これらが複雑に絡み合い、報道や単純化された議論では見落とされがちな実相を示している。

本書の構成と著者について

本書『おどろきの「クルド人問題」』は、ノンフィクションの現場ルポとして、石神賢介氏が自らの体験と聞き取りに基づいてまとめた叙述が核になっている。ユーモアとスリルを交えた文体で、シリアスなテーマを読みやすく提示することを志向している。

出版情報は次のとおりである。出版社は新潮社、発売日は2025年8月20日(水)、造本は新書判、定価は968円(税込)、ISBNは978-4106110962である。公式の書誌ページは次のURLで確認できる:
https://www.shinchosha.co.jp/book/611096/

著者・石神賢介の略歴

石神賢介(いしがみ・けんすけ)は1962年(昭和37年)生まれ。大学卒業後に雑誌・書籍の編集を経てライターに転じ、人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広く執筆してきた。過去の著作には四十代の婚活体験をまとめた『婚活したらすごかった』などがある。

経歴の記述には私生活に関する簡潔な記載もあり、三十代のときに一度結婚したが離婚したことが触れられている。長年にわたる編集・取材経験が、本書の取材手法と文体に反映されている。

書籍の見どころ

プレスリリースは本書の見どころとして、次のポイントを挙げている。取材拠点をウイークリー・マンションに置き、現地での生活を通じて得たリアルなエピソード、予期せぬ追跡事件の体験、そして市長や市議会議員を含む多様な当事者の声を通して導き出された「多文化共生」という理想と現実のギャップである。

文章はユーモアとスリルを織り交ぜながらも、差別やヘイトといった指摘がなされる側とそれに反発する側双方の視点を、単純に断罪したり擁護したりすることなく提示している点も触れられている。

要点の整理と主要データの一覧

この記事で紹介したプレスリリースの主要情報を整理する。以下の表は書籍の基本データと取材の要点、プレスリリース発表日時などを網羅的に示している。

項目 内容
プレスリリース発表者 株式会社新潮社
プレスリリース発表日時 2025年8月20日 11時00分
書名 おどろきの「クルド人問題」
著者 石神賢介(いしがみ・けんすけ)
発売日 2025年8月20日(水)
造本 新書
定価 968円(税込)
ISBN 978-4106110962
公式URL https://www.shinchosha.co.jp/book/611096/
取材拠点 埼玉県川口市・西川口駅前のウイークリー・マンション
取材対象・訪問先 ケバブ店、クルド人御用達の朝食食堂、シーシャバー、解体業者、教育現場、子ども、住民、市議会議員、市長
主要テーマ 多文化共生の理想と現実(軋轢・誤解・日常の接点)

以上がプレスリリースに基づく内容の整理である。取材・執筆は現場の具体的な出来事と多様な当事者の証言に依拠しており、単一の見解に偏らない構成となっている。現地での生活を通じて明らかになった事実は、メディアや世論で語られる「クルド人問題」を再考する材料を提示している。

参考リンク: