映画館市場が4年ぶり縮小、2024は2775億円に
ベストカレンダー編集部
2025年9月1日 14:03
映画館市場2024縮小
開催日:9月1日
国内映画館市場は2024年度に4年ぶりの縮小——市場規模と調査の概要
株式会社帝国データバンクが実施した「映画館業界」動向調査(発表日時:2025年9月1日 10時10分)によると、2024年度の国内映画館市場(事業者売上高ベース)は2,775億円となり、前年度比で3.3%減少
調査対象は映画館を運営する企業(セグメント売上高を含む)で、業績データは2025年8月時点の帝国データバンク保有の企業概要ファイル(COSMOS2:約149万社収録)、企業信用調査報告書(CCR:約200万社収録)、および外部情報を基に集計されています。なお、映画館企業の業績データには一部推定・予想値が含まれています。
調査が示した主要数値
本調査で明らかになった主な数値は次のとおりです。まず市場規模は2,775億円、前年度比3.3%減。そして、企業別の業績では売上高が「前年度並み」となった企業の割合が46.1%と4割を超えています。
その一方で「増収」の割合は26.5%にとどまり、前年(2023年度:45.4%)から18.9ポイント低下しました。増収の割合が4割を下回ったのは、2020年度以来のことです。
興行環境の変化:話題作はあるがメガヒット不足と配給本数の減少
2024年度は邦画の話題作やヒット作が複数配給されました。アニメでは『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』、『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』、実写では『ゴジラ-1.0』『キングダム 大将軍の帰還』などが注目されましたが、コロナ以前のメガヒット級(例:2020年の『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の興行収入400億円超)に匹敵する作品は例年より少なかったことが市場縮小の一因とされています。
また洋画では『インサイド・ヘッド2』などの人気作がある一方で、米ハリウッドでの脚本家・俳優のストライキが配給本数を抑制し、館側の集客に影響を及ぼしました。これにより、入場者数を大きく牽引する材料が不足していた点が指摘されています。
- 主な邦画(2024年度)
- 『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』『ゴジラ-1.0』『キングダム 大将軍の帰還』
- 主な洋画(2024年度)
- 『インサイド・ヘッド2』など(ただし配給本数の減少が観測)
収益・損益構造と運営コストの上昇要因
2024年度の損益状況では、売上の増加に寄与した企業は限られており、「増益」は34.5%にとどまり、前年(47.6%)から13.1ポイント低下しました。反対に、「赤字」の割合は44.8%に拡大し、これも4年ぶりの増加です。
赤字拡大の背景には人件費や光熱費、物価上昇などによる運営コストの増加があります。深夜帯まで営業する映画館では受付スタッフなどの人員確保が困難で、給与引き上げに踏み切った施設が多く見られました。また、電気代の上昇やポップコーンなどフードサービスの仕入れ価格上昇も重荷となっています。
収益改善のための取組とその限界
多くの映画館では鑑賞料金や飲食メニューの値上げ、クレーンゲーム等の設置など上映以外の収益源を確保する動きが進みました。これらの施策は一部での収益改善に寄与したものの、入場者減少による影響が大きく、総じて「減収減益」傾向が強まりました。
以下に運営側が直面している主なコスト要因を列挙します。
- 人件費:深夜帯などの勤務体制に伴う採用・定着コストと賃金上昇
- 光熱費:電気代の上昇が施設維持費を押し上げ
- 物品仕入れ:ポップコーン等のフードサービスの原価上昇
- 集客環境:洋画配給本数減少やメガヒット不在による来館抑制
2025年度の見通しと要因整理
帝国データバンクでは、各社が公表した業績予想(2025年7月時点)を基に、2025年度の映画館市場を2,800億円前後(2024年度比で微増)と予想しています。この見通しの主要因には、邦画でのメガヒットが相次いだことが挙げられます。
具体的には、夏休みに客足を伸ばし公開後1カ月で興行収入257億円を突破した『劇場版 鬼滅の刃 無限城編』や、実写邦画では『国宝』が興行収入100億円を突破するなど、邦画側からの追い風が観測されています。これにより、映画ファン以外の一般客層も大画面や音響といった“リアル”体験を求めて来場する傾向が確認されています。
他方で、構造的な課題は依然として残ります。洋画大作や特定タイトルへの依存、そしてNetflixやHulu、Amazonプライムビデオ等の定額制動画配信サービスの浸透により、観客が劇場に足を運ぶ機会が恒常的に減少する傾向は続く見込みです。
予想の前提と留意点
2025年度見通しは各社の公表予想を基に算出されたものであり、洋画の回復時期や配給本数の動向、配給スケジュールの変更、さらには経済環境や物価・エネルギー価格の推移などにより変動する可能性があります。
また、劇場側は収益多角化やイベント開催、飲食・物販強化といった施策を続けることが求められますが、来館頻度の回復がなければ一定のコスト負担を吸収するのは容易ではありません。
要点の整理(表)と結論的なまとめ
以下の表は、本記事で示された調査データと主要事項を整理したものです。数値は帝国データバンクの集計に基づくもので、業績データの一部には推定値・予想値が含まれます。
| 項目 | 数値・内容 |
|---|---|
| 発表元・日時 | 株式会社帝国データバンク、2025年9月1日 10:10 |
| 調査対象 | 映画館を運営する企業(セグメント売上高を含む) |
| 市場規模(2024年度) | 2,775億円(前年度比3.3%減、4年ぶり縮小) |
| 市場規模(2020年度) | 1,785億円(コロナ禍で大幅落ち込み) |
| 増収企業割合(2024年度) | 26.5%(2023年度:45.4%、18.9pt低下) |
| 前年度並みの企業割合 | 46.1% |
| 増益割合(2024年度) | 34.5%(2023年度:47.6%、13.1pt低下) |
| 赤字割合(2024年度) | 44.8%(4年ぶりに拡大) |
| 主要要因 | メガヒット作の不足、洋画の配給本数減少、動画配信サービスの浸透、運営コスト上昇(人件費・電気代・仕入れ価格) |
| 主要話題作(2024年度) | 『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』『ゴジラ-1.0』『キングダム 大将軍の帰還』『インサイド・ヘッド2』 |
| 2025年度見通し | 2,800億円前後(各社予想=2025年7月時点)、邦画のメガヒットが追い風だが構造課題は継続 |
| データ出典 | COSMOS2(約149万社)、CCR(約200万社)、企業信用調査報告書、外部情報(2025年8月時点) |
総括すると、2024年度は話題作は存在したもののメガヒット不足や洋画配給の減少、定額制動画配信サービスの普及などが重なり、映画館市場は縮小しました。2025年度は邦画の大ヒットが見込まれることで市場は微増の見込みですが、配給構造や消費者の鑑賞行動変化といった構造的課題は依然残っています。
本記事は帝国データバンクの調査結果を基に、市場規模、業績分布、作品別動向および運営上の課題を整理して伝えました。今後の推移は配給スケジュールや消費環境の変化により左右されるため、継続的な注視が必要です。