IOWN APNで万博の共同リモート制作を実証
ベストカレンダー編集部
2025年11月13日 17:36
IOWN共同リモート実証
開催日:11月13日
万博会場で実証された「IOWN APN」共同利用型リモートプロダクションの全体像
NTT西日本グループ(NTT西日本、NTTビジネスソリューションズ、NTTスマートコネクト、NTTSportictを含む)は、2025年11月13日15時00分付の発表において、2025年大阪・関西万博の会期中に実施したリモートプロダクションの実証実験の結果を公表しました。今回の実証は、IOWN APN(All-Photonics Network)を活用し、複数放送局が共同で制作機能を共有する形で行われ、大容量・低遅延・ゆらぎゼロの通信特性を用いて高品質な映像伝送と安定した番組制作ワークフローの実現性を示しました。
発表では、NTTスマートコネクトのデータセンターと万博会場、放送局を接続する形で、データセンターに制作機能を集約し、放送局が遠隔から制作機能を利用する「共同利用型リモートプロダクション環境」を提供した点が強調されています。実証実験の成果は、番組制作における設備投資の最適化や制作ワークフローの効率化に関する可能性を示しており、将来的なサービス事業化に向けた検討が進められる予定です。
実施日時と関係組織
本件は2025年11月13日に発表され、実証は大阪・関西万博の会期中に行われました。実施主体はNTT西日本グループで、NTTビジネスソリューションズとNTTスマートコネクトが中心となり、放送局側には日本放送協会(NHK)、朝日放送テレビ、関西テレビ放送、読売テレビ放送などが参加しています。
発表資料や関連リンクとして、NTTビジネスソリューションズのニュースリリース(https://www.nttbizsol.jp/newsrelease/202511131500001255.html)が公開されています。その他、IOWNやAll-Photonics Connectに関する既往の発表資料も参考情報として提示されています。
実証実験の構成と評価 — 技術面と運用面の詳細
実証では、NTTスマートコネクトのデータセンターをハブに、万博会場と複数放送局をIOWN APN技術により接続しました。接続方式は「All-Photonics Connect powered by IOWN」を用い、データセンター上の制作機能を放送局が遠隔から利用する方式です。制作に必要な映像、音声、時刻同期信号、制御系通信、インカム、Tallyなどの各種通信を統合して運用しました。
技術評価では、冗長を考慮したネットワークを前提に、リモートプロダクションが支障なく実施できることを確認しました。具体的には、SMPTE ST2110による非圧縮の映像伝送を行い、メディア面の冗長化にはAll-Photonics Connectを2経路で利用し、SMPTE ST2022-7によるシームレスな伝送路間切替を実装しました。
- 映像伝送方式
- SMPTE ST2110 による非圧縮映像のIP伝送を採用。高画質かつ低遅延の要件に対応。
- 冗長化
- All-Photonics Connectを2経路利用し、SMPTE ST2022-7でメディア面の冗長を確保。
- 通信種別
- 映像、音声、時刻同期、制御信号、インカム、Tally等、制作に必要な全通信を対象。
運用面の評価では、実際の番組制作における有用性が検証され、以下の4つの運用上のメリットが報告されています。
- 拠点間の円滑なコミュニケーション:インカムを用いた遅延のない音声通話が可能となり、現場と制作拠点間の連携が容易になった。
- 一貫した制作ワークフローの確立:撮影から制作、送出までの工程を遠隔で支障なく実施できた。
- 柔軟性の高い運用:接続先の拡張や各種設定変更に柔軟に対応でき、放送局の制作要件に適応しやすい運用性を確認。
- 設備投資の最適化:必要なときに必要なリソースを共同利用する方式により、設備投資や維持コストの効率化が期待される。
利用実績の詳細
在阪放送局4局が本実証に参加し、複数の利用パターンでIOWN APNを活用しました。具体的な利用方法は大きく2パターンに分かれます。
- リモートプロダクション環境を用いた中継番組制作:万博会場で撮影した複数の映像をデータセンターへ伝送し、データセンター上の制作機能を放送局が利用して中継番組を制作。
- 映像データの伝送路としての利用:万博会場の映像を放送局へ直接伝送し、放送局側のスタジオ(副調整室)と連携して番組制作。
これらの方式により、撮影拠点と制作拠点の物理的距離に依存しない制作が実現されています。
参画放送局の声とサービス化に向けた展開計画
参加した放送局からは実運用を踏まえた評価コメントが寄せられています。朝日放送テレビは、IOWN APN回線が局外設備を局内と等価に扱える点に驚きを示し、全国で低廉化した回線が広がることに期待を示しました。関西テレビは8台のカメラとバーチャル背景を用いた音楽番組「いのち輝く吹奏楽」を配信し、現場での運用を通じて課題を抽出したことを報告しています。読売テレビは超低遅延回線による制作上のストレス軽減を評価しつつ、システム・回線等のコスト課題を指摘しています。
NTT西日本グループは、今回の実証で使用したデータセンターをハブ(中継拠点)とし、複数のイベント会場と制作拠点をAll-Photonics Connectで繋ぐ共同利用型の「メディアハブ(仮称)」のサービス化を検討すると明記しています。関西地域では京セラドーム大阪、阪神甲子園球場など主要拠点での活用を進め、順次他拠点への展開を図る方針です。
加えて、AIを活用した映像分析や編集支援などの機能強化を進めることで、映像制作のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、コンテンツ品質の向上に寄与する計画が示されています。サービス名称は検討中であり、今後の実装・商用化に向けて課題解決と提供環境の整備を進めると述べられています。
今後の情報公開・セミナー
本取り組みの詳細は、InterBEE2025の期間中に登壇予定のセミナーで紹介される予定です。セミナー情報は以下の通りです。
- 日時
- 2025年11月19日(水)14:00~15:30
- 場所
- 幕張メッセ内 国際会議場1階「104」
- テーマ
- 万博における共同利用型リモートプロダクションを運用して得た知見と課題(仮)
- 登壇企業
- NTTビジネスソリューションズ/NTTスマートコネクト/パナソニック コネクト/日本放送協会/朝日放送テレビ/関西テレビ放送/読売テレビ放送
本セミナーでは、実証で得られた具体的な知見や運用上の課題、今後の対応方針などが紹介される予定です。関係者による詳細な説明が行われる見込みです。
用語解説と問い合わせ先
発表資料には専門用語や補足説明が付されています。IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想やAPN(All-Photonics Network)の意味合い、SMPTE規格の役割などが注記されています。以下に主要な用語の要点を整理します。
- IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)
- 光を中心とした革新的技術を用い、高速・大容量通信や大規模計算リソースを提供するネットワーク・情報処理基盤の構想。詳細はNTTのリファレンスが提供されています。
- APN(All-Photonics Network)
- 端末からネットワークまでフォトニクス技術を導入し、低消費電力・高品質・大容量・低遅延を実現するネットワーク概念。
- SMPTE ST2110
- 放送向けのプロフェッショナルな映像・音声をIPネットワーク上で伝送する国際標準規格。非圧縮伝送が可能。
- SMPTE ST2022-7
- 伝送路間のシームレスな切替を規定する規格で、冗長性確保に使用される。
本案件に関する問い合わせ先は以下の通りです。問い合わせの際は記載されたメールアドレスを確認のうえ、誤送信がないよう注意を呼びかけています。
- NTTビジネスソリューションズ株式会社
- バリューデザイン部 ソーシャルイノベーション部門(吉田、松永、平田) Email:ipbc@west.ntt.co.jp
- NTTスマートコネクト株式会社
- メディアビジネス部 放送DX(安永、清木場、井上) Email:mb-cdp@nttsmc.com
発表資料には注記として、ニュースリリースの内容は発表日時点のものであり、現時点で異なる場合がある旨の注意書きが付されています。また、All-Photonics Connectに関する先行発表(2024年11月18日)や、IOWNに関する説明ページのリンクが併記されています。
この記事の要点を表で整理
以下の表に本リリースで示された主要事項を整理しました。技術仕様、参加組織、実証内容、評価事項、今後の展開、問い合わせ先を一覧にしています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表日 | 2025年11月13日 15:00 |
| 実施場所 | 2025年大阪・関西万博 会期中(万博会場、NTTスマートコネクト データセンター、在阪放送局) |
| 主催/実施 | NTT西日本グループ(NTT西日本、NTTビジネスソリューションズ、NTTスマートコネクト、NTTSportict) |
| 参加放送局 | 日本放送協会、朝日放送テレビ、関西テレビ放送、読売テレビ放送 |
| 使用技術 | IOWN APN、All-Photonics Connect、SMPTE ST2110(非圧縮映像)、SMPTE ST2022-7(メディア冗長) |
| 実施内容 | データセンターに制作機能を集約し、リモートプロダクション環境を共同利用。中継番組制作と映像伝送路利用の双方を実施。 |
| 主な評価結果 | ・高品質で安定した映像伝送の実現(大容量・低遅延・ゆらぎゼロ)・リモートワークフローの一貫化・柔軟な運用・設備投資最適化の可能性 |
| 今後の展開 | 「メディアハブ(仮称)」のサービス化検討、拠点拡大(京セラドーム大阪、阪神甲子園球場等)、AI活用による映像分析・編集支援の強化 |
| セミナー | InterBEE2025 セミナー:2025年11月19日 14:00~15:30(幕張メッセ 国際会議場1階「104」) |
| 問い合わせ | NTTビジネスソリューションズ(ipbc@west.ntt.co.jp)、NTTスマートコネクト(mb-cdp@nttsmc.com) |
以上が、NTT西日本グループが発表した大阪・関西万博におけるIOWN APNを活用した共同利用型リモートプロダクション実証実験の全容と、その評価、今後の提供に向けた検討点の整理です。発表資料は2025年11月13日付のリリースおよび関連リンクを参照してください。
参考リンク: