IFBで実証:SiC–Si/サファイア–SiCの常温接合が成功

IFBでSiC常温接合成功

開催日:12月8日

IFBでSiC常温接合成功
IFBって何?普通の接合と何が違うの?
IFBは真空プラズマで表面の酸化膜を原子レベルに還元し酸素・炭素を除去、室温近傍・低荷重でSiCやサファイアなどを酸化膜レスで直接接合できる技術で、高温プロセスによる熱ダメージを避けられる点が異なります。
これっていつ頃、製品に使えるの?
今回の実証は量産検証に向けた重要な段階で、装置メーカーやデバイスメーカーと連携して試作→量産検証を進める段階です。具体的な実用化時期は製品分野や検証結果次第で数年の期間を要する見込みです。

次世代パワー半導体材料の接合課題を変えた「Ion Flow Bonding(IFB)」の核心

2025年12月8日 07時59分、SHW Tech株式会社は台湾・国立成功大学・水野潤教授の研究グループと共同で、独自のゼロレディーボンディング技術であるIFB(Ion Flow Bonding)を用い、従来「常温での直接接合がほぼ不可能」とされた材料群の接合に成功したと発表しました。対象となったのは次世代パワー半導体で需要が高まっているSiC(炭化ケイ素)と従来のシリコン、ならびに光学材料や高耐環境用途で用いられるサファイアです。

この成功は、IFBが持つプラズマを活用した化学的酸化膜還元プロセスにより、酸化膜の内部から酸素・炭素を原子レベルで除去し、極めて高活性な表面を形成できる点に起因します。これにより、室温近傍かつ低荷重での貼り合わせが可能となり、硬く化学的に安定なSiCやサファイアといった材料の異種接合を実現しました。

次世代半導体材料「SiC」とシリコン、サファイアの常温接合IFBで成功 画像 2

IFB技術の手順と特性

IFBは真空プラズマ処理で表面酸化膜を除去し、接合面を金属パッド酸化膜レスで接続できる点が特徴です。酸化膜を原子レベルで除去するため、接合界面に余分な介在物を残さず、低温・低荷重での接合を可能にします。

このプロセスは従来の高温拡散結合や接着剤に頼る方法と異なり、熱ストレスや材料間の膨張係数差によるダメージを抑制できるため、特にワイドバンドギャップ材料(SiC、GaN、Ga2O3、ダイヤモンド等)の応用に適しています。

次世代半導体材料「SiC」とシリコン、サファイアの常温接合IFBで成功 画像 3

実証された接合ペアとその意義—SiC–Siおよびサファイア–SiC

今回の発表でSHW Techは、具体的にSiC–Siおよびサファイア–SiCの常温接合を安定して実証したと述べています。SiCは高耐圧・高耐熱性および低損失性を兼ね備えるため、EV(電気自動車)、再生可能エネルギー、データセンター向け電源などで需要が急増しています(参考:IEA「Global EV Outlook」、Yole Intelligence「Power SiC Report」)。

これらの組合せの接合が可能になったことは、従来は機械的・化学的な理由で接合が困難だった材料間での新しいデバイス構造や3次元実装を設計可能にする点で重要です。特にサファイアは硬度が高く化学的に安定であり、従来技術では常温接合がほぼ不可能とされていましたが、IFBはそれを覆しました。

実証の技術的成果と期待される効果

今回の実証により、SiCを基盤とするデバイスにおいて、従来の高温プロセスに伴う熱ダメージを回避しつつ、金属パッドを酸化膜レスで接続できるため、信頼性と高密度実装の両立が期待されます。これにより、電力損失低減や小型化、高効率化が図られます。

実装面では、3D積層や異種材料を組み合わせたハイブリッド実装が現実的になることで、EV向けパワーモジュールや高速通信・データセンター用電源、光学・高耐環境センサーなど幅広い用途での利点が想定されます。

研究体制・特許・製品化に向けた取り組み

SHW Techは日本と台湾でIFBに関する特許を取得しており、国立成功大学・水野研究グループと共同での研究により、基礎から応用までの検証を進めています。今回の接合実証は基礎実験の段階を越え、量産検証に向けた重要なマイルストーンとなります。

同社は装置メーカーやデバイスメーカーとの連携を明示しており、研究試作から量産検証までを一貫して行う体制を構築する計画です。これにより、実装プロセスの工業スケール展開が見込まれます。

拡張研究の方向性

発表では、SiC–GaN、Ga2O3、ダイヤモンドなど、より接合が難しいワイドバンドギャップ半導体間の接合研究や、ガラスインターポーザへの応用にも研究を広げる意向が示されています。これらは高耐圧・高周波・高温動作が求められる次世代デバイスに直接的な恩恵をもたらします。

応用分野としては、具体的にEV向けパワーモジュール、高速通信・データセンター用電源、光学・高耐環境センサーが挙げられており、実用化が進めば電力変換効率の改善やシステムの小型化、耐環境性の向上が期待されます。

コメント、会社概要、問い合わせ先と技術的要点の整理

SHW Tech株式会社 代表取締役の長田厚氏はコメントで、SiCは脱炭素社会を支える重要材料である一方、加工・接合が極めて難しい素材であるとした上で、今回のIFBによるSiC–Siとサファイア–SiCの常温接合実証が「新しいデバイス構造や3D実装の実現に向けた大きな進展」であると述べています。さらに、IFBが酸化膜を原子レベルで接合し金属パッドを酸化膜レスで接続できる点が、次世代の高密度3D実装に大きく貢献すると期待を示しています。

以下に本記事で扱った主要情報を整理します。会社の所在地、代表者名、事業内容、連絡先情報も含め、技術面と事業面の要点を明確にまとめます。

項目 内容
発表日 2025年12月8日 07:59
発表者 SHW Tech株式会社(国立成功大学・水野潤教授グループと共同)
技術名 IFB(Ion Flow Bonding)ゼロレディーボンディング技術
実証接合ペア SiC–Si、サファイア–SiC(常温接合の安定実証)
技術の特徴 真空プラズマ処理による化学的酸化膜還元、酸素・炭素の原子レベル除去、室温近傍・低荷重での接合、酸化膜レス金属パッド接続
期待される応用分野 EV向けパワーモジュール、再生可能エネルギー用電力変換、高速通信・データセンター用電源、光学・高耐環境センサー、3D実装技術全般
今後の研究展開 SiC–GaN、Ga2O₃、ダイヤモンド等のワイドバンドギャップ半導体接合、ガラスインターポーザ応用、量産検証
特許状況 日本および台湾でIFBに関する特許取得
参照資料 IEA「Global EV Outlook」、Yole Intelligence「Power SiC Report」
公式サイト https://www.shwtechjp.com
問い合わせ先(E-mail) info@shwtechjp.com(担当:長田)
会社所在地 山梨県甲府市
代表者 長田 厚(代表取締役)
事業内容 接合装置の開発製造販売、検査装置製造販売、枚葉高速アニール装置の製造・販売、半導体製造工程での表面処理・接合技術・検査技術の提供(アジア地域を中心)

本件は、硬質で化学的に安定な材料群に対する常温での異種接合という長年の技術課題に対し、IFBという新しいアプローチで具体的な解決策を示した報告です。発表された内容は、材料科学と半導体実装技術の接点での応用可能性を広げるものであり、産業応用に向けた追試および量産条件の検証が今後の焦点となります。

参考リンク: