ロレアルR&I、横浜で発表した化粧品研究3件の要点

ロレアル学術大会発表

開催期間:12月8日〜12月10日

ロレアル学術大会発表
どんな発表があったの?
ロレアル R&I ジャパンは第3回日本化粧品技術者会(横浜、12/8-10)で、キトサン基盤の多機能クレンザー「Glyco‑san」、PICを応用したメイク下地、EEGで解析したヘアカラーの匂いと心理影響の3件をポスター発表しました。
これって商品化されるの?
今回の発表自体は研究成果の報告で即時の製品発売は明記されていませんが、Glyco‑sanやPIC下地は処方応用が見込まれ、EEGの知見は低刺激処方や施術改善へとつながる可能性が高いです。

第3回日本化粧品技術者会学術大会で示された「消費者志向の機能性研究」

ロレアル リサーチ&イノベーション ジャパン(所在地:神奈川県川崎市、所長:アミット・ジャヤズワル)は、2025年12月8日から10日にかけてパシフィコ横浜ノースで開催された第3回日本化粧品技術者会学術大会にて、消費者が求める化粧品の機能性に関する3件のポスター発表を行いました。プレスリリースは日本ロレアル株式会社から2025年12月19日10時00分に発表されています。

本学術大会は国内最大級の化粧品関連学会であり、化粧品の基礎研究だけでなく、ヒトの皮膚や毛髪、心理面に関する学術的研究が広く発表される場です。ロレアル R&I ジャパンの発表は、次世代クレンザー、メイクアップベースによる皮膚性状改善、ならびにヘアカラーの匂いが心理に与える影響という、多様な領域を横断する内容でした。

発表された三つの研究の要旨と技術的特徴

本章では、ロレアル R&I ジャパンが発表した三つのポスター演題について、それぞれの技術的な要点と得られた知見を整理して伝えます。発表は以下の三件です。

  • Glyco-san:多機能クレンザー技術(河西毅彦ら)
  • ポリイオンコンプレックス(PIC)を基にしたメイクアップベース(茂垣里奈ら)
  • ヘアカラーの匂いが消費者の心理に与える影響(EEG解析)(山本佐和子ら)

以下に各発表の詳細な内容を示します。発表者名、技術名称、研究背景、方法、主な結果および示唆をできる限り具体的に含めます。

Glyco-san:キトサンを基にした多機能クレンザー(河西毅彦ら)

本研究は、洗顔料を含む化粧品全般における「高い洗浄力」と「肌に残す有益成分の保持」という一見相反する要件を両立させることを目的としています。従来の課題として、エモリエントオイルや有効成分を高濃度で配合した場合に泡の安定性が損なわれる点が挙げられていました。

研究では、バイオ由来で抗菌・抗炎症効果が知られるキトサンと、ラムノリピッドの静電的複合化(イオン的相互作用)を用いる独自技術「Glyco-san」を導入しました。油分の乳化・封入を行うことで、洗浄性能を確保しつつ皮膚に有用な物質の残存を可能にし、泡の安定性も向上させることに成功しています。

技術の特徴
・バイオ由来キトサンとラムノリピッドのポリイオン複合体化による油分封入
・有機溶剤や加熱を不要とする調製プロセス(グリーンケミストリーに準拠)
・泡安定性と洗浄力の両立、スキンケア処方への応用可能性

Glyco-sanは、天然素材を活用し、持続可能性を重視した製造工程である点が強調されています。これにより幅広いスキンケア用途への適用が期待されます。

ポリイオンコンプレックス(PIC)を応用したメイクアップベース(茂垣里奈ら)

この研究は、ポリイオン性ポリマーと柔軟な架橋剤から構成される複合材料であるポリイオンコンプレックス(PIC)を化粧下地に応用したものです。PICは混合するだけで自発的に特定構造を生成し、皮膚上では柔軟な皮膜を形成します。

研究チームは天然由来のヒアルロン酸、ポリリジン、フィチン酸を組み合わせた新規PICを開発し、皮脂コントロールと保湿バランスを両立する下地処方として評価しました。臨床試験では、油分コントロールと保湿の両立に加え、皮膚のハリと弾力性の改善が確認され、長期使用で皮膚の滑らかさと弾力性が著しく改善するという結果が示されました。

構成成分 想定効果
ヒアルロン酸、ポリリジン、フィチン酸 柔軟な皮膜形成、保湿、皮脂バランス調整

このアプローチは、一日中持続するマットな仕上がりを実現すると同時に、日常的なメイクアップを通じて皮膚性状そのものを改善するというコンセプトを提示しています。化粧下地としての即時的な審美効果と、長期使用による皮膚状態の改善という二軸の価値が報告されています。

ヘアカラーの匂いが心理に与える影響:EEGによる検証(山本佐和子ら)

本研究は、ヘアカラー施術時に生じる匂いや頭皮の不快感が消費者の心理に与える影響を、神経生理学的手法である脳波(EEG)と主観評価アンケートを用いて検証したものです。ヘアカラーは広く使用される製品である一方、施術中の刺激臭や頭皮刺激が課題となっています。

解析の結果、アンモニアを含むサンプルは強い不快感とストレス反応を引き起こし、アンモニア無配合サンプルではそれらが軽減されることが示されました。また、被験者が主観的には認識していなかった感情変化もEEGによって可視化することができました。これらの知見は、消費者の精神的体験に関する理解を深め、ヘアカラー製品や施術プロセスの改善に資する可能性があるとされています。

研究手法
・EEGによる神経生理学的計測
・主観的評価アンケートの並行実施

本発表は京都橘大学大学院健康科学研究科兒玉研究室(京都市山科区)との共同研究に基づくものである点も明示されています。

ロレアルグループとロレアル リサーチ&イノベーション ジャパンの役割

ロレアルは115年の歴史を持つ美容・化粧品業界の企業であり、同社のパーパスは「世界をつき動かす美の創造」とされています。企業はサステナブルでインクルーシブ、倫理的かつ責任ある形で美に貢献することを掲げ、37の国際ブランドを含む幅広いポートフォリオを有しています。

ロレアルのグループデータとして、2024年のグループ売上高は434億8千万ユーロであり、従業員数は9万人を超えます。研究開発のネットワークは世界13ヵ国に21のR&D拠点を持ち、4,000人以上のサイエンティストと8,000人を超えるデジタル人材が在籍しています。詳細はロレアルのメディアルーム(https://www.loreal.com/en/mediaroom)で確認できます。

日本における研究開発は1983年に開始され、現在は日本ロレアル リサーチ&イノベーションセンター(所在地:川崎市、所長:アミット・ジャヤズワル)として機能しています。R&I ジャパンは日本の文化、歴史、社会、エコシステムを40年以上にわたり深く理解し、200名以上の研究員が上流から下流までの開発を推進しています。

  • 代表的な取り扱いブランド:ランコム、シュウ ウエムラ、TAKAMI、キールズ、イヴ・サンローラン ボーテ、ケラスターゼ、メイベリン ニューヨークなど
  • 公式情報:ロレアル ジャパン:R&Iに関するページ

この記事の要点整理と発表内容の一覧表

以下の表は、本記事で取り上げた発表内容を要点ごとに整理したものです。発表日、会場、演題、代表者、主な結論、備考を含めて一覧化しています。

項目 詳細
プレスリリース発表日 2025年12月19日 10時00分(日本ロレアル株式会社)
学術大会 第3回日本化粧品技術者会学術大会(会場:パシフィコ横浜ノース)
開催日:2025年12月8日~10日
演題(Glyco-san) 河西毅彦ら「Glyco-san:クレンザー機能を強化するためのキトサンを基にした多機能性技術」
主な結論:キトサンとラムノリピッドの静電複合化により油分の乳化・封入を実現し、洗浄力と有用物質保持、泡安定性を両立。調製に有機溶剤や加熱を不要とする持続可能な技術。
演題(PICメイクアップ) 茂垣里奈ら「皮膚完全性の新基準: ハリのある滑らかな皮膚のためのポリイオンコンプレックスを基にしたメイクアップ」
主な結論:ヒアルロン酸、ポリリジン、フィチン酸からなる新規PICを下地に応用し、油分コントロールと保湿のバランスを実現。臨床試験でハリ・弾力・長期的な滑らかさの改善を確認。
演題(EEGによる匂い検証) 山本佐和子ら「ヘアカラーの匂いが心的状態に及ぼす影響:EEGによる神経生理学的検証」
主な結論:アンモニア含有サンプルは不快感とストレス反応を誘発し、アンモニア無配合で軽減。EEGで主観的に認識されない感情変化も可視化。京都橘大学大学院健康科学研究科兒玉研究室との共同研究。
ロレアル グループ情報 創業115年、2024年売上高:434億8千万ユーロ、従業員数:9万人超、研究者:約4,000名。メディアルーム:https://www.loreal.com/en/mediaroom
R&I ジャパン情報 日本でのR&Dは1983年開始。所在地:川崎市、所長:アミット・ジャヤズワル、研究員200名以上。公式情報:https://www.loreal.com/ja-jp/japan/articles/science-and-technology/beauty-research-and-innovation
関連リンク 関連資料(Google Drive)

本稿は、ロレアル リサーチ&イノベーション ジャパンの発表内容を出典に基づき整理したものであり、各研究は技術的・臨床的観点から具体的な知見を示しています。発表には持続可能性、消費者心理、皮膚性状の長期改善など幅広い示唆が含まれており、化粧品研究と製品開発の接点で重要な情報を提供しています。

参考リンク: