1反の収穫量はどれくらい?450〜600kgの実像
ベストカレンダー編集部
2025年09月27日 09時35分
田んぼ一反をめぐる基礎知識──面積単位と収穫の「実像」
伝統的な面積単位の関係と日常感覚への置き換え
田んぼの面積を表す伝統的な単位には「歩(ぶ)」「畝(せ)」「反(たん)」「町(ちょう)」などがあります。これらは現代の平方メートル(㎡)やアール(a)、ヘクタール(ha)と結びつけて理解すると実際の規模感がつかめます。
以下に主要単位の換算を示します。数値は一般的に使われる近似値です。
- 歩(ぶ)
- 約3.3㎡(おおむね1坪)
- 畝(せ)
- 30歩 ≒ 約99㎡
- 反(たん)
- 10畝 = 300歩 ≒ 約990㎡(一般に「1反=約1,000㎡」と覚える)
- 町(ちょう)
- 10反 ≒ 約9,900㎡(約1haに近い)
この換算を身体感覚に落とし込むと、例えば学校の25m×50mプール(1,250㎡)は約1.25反に相当し、一般的な住宅敷地(50〜100㎡)は約0.5〜1畝という感覚です。
一反あたりの収穫量(反収)の目安と変動要因
収穫量は地域、品種、栽培方法、気象条件、土壌の状態など多くの要因で変動します。一般的な範囲としては、1反から450kg〜600kg程度(重めの記録では600kgを超えることもある)という値を参考にできます。換算すると、1俵=60kgですから、反収で8俵は約480kgに当たります。
現場の報告では、条件が良ければ1反で600kg(約10俵)に近づくこともある一方、冷害や長雨、台風被害があれば著しく減少します。自然栽培や肥料を減らした栽培法でも8俵/反を達成したという事例(のちほど詳述します)も報告されています。
作業時間や労力の参考値(素人・機械化の違い)
作業時間は機械化の程度や経験によって大きく変わります。農林水産省や実践報告では、素人が1反を管理して収穫まで持っていくのに30〜40時間、経験者や機械を適度に使えば23〜40時間程度という目安が示されています。
例えば、田植え、除草管理、稲刈り、乾燥・籾摺(もみす)りといった工程を合算すると、手作業中心だと大幅に時間がかかります。逆にトラクターや田植え機、コンバインを導入すれば時間短縮が可能ですが、その分初期投資と維持費が増えます。
稲作一本で暮らせるか──収益性と必要面積の現実
価格と収入の試算:市場価格と直販の差
米の流通価格や直販価格は大きく違います。ある実例では1俵(60kg)あたり市場価格で約13,000円前後という数字が示されていました(地域・年によって変動)。この数字を使うと、たとえば反収が8俵(480kg)の場合、反当たりの売上は約104,000円になります。
一方で、直販(農家が直接消費者に販売)では白米10kgで5,000〜7,000円というレンジが報告されており、同じ米を直販すれば市場流通より利益効率が上がる可能性があります。ただし直販は配送・梱包・販路開拓・顧客管理といった手間が増えます。
生活に必要な面積例と初期投資の規模感
先の計算を基に「稲作だけで生活」を試算すると、一般的な生活費や家族構成にもよりますが、1人で稲作収入のみで安定的に暮らすには非常に大きな規模が必要とされます。ある試算では、年間に十分な収入を得るには100反(10ha)規模が必要、という現実的な指摘があります。
この規模を自力で管理するには、トラクター、田植え機、コンバインなど集中的な機械設備が不可欠で、これらの導入だけで1,000万円程度の投資がかかることもあるとされています。さらに燃料費、育苗用資材、運搬費、税金などのランニングコストも忘れてはなりません。
コスト項目と自然災害リスク、価格変動の脆弱性
稲作は年1回収穫が基本のため、台風や集中豪雨、病害発生時には一年分の収入が失われるリスクがあります。保険や分散経営(複数品目への転換)でリスクヘッジするのが一般的です。
さらに市場価格の変動や需給状況、農協との関係性、流通ルートの選択なども収益に直結します。稲作単独での生計は可能性としてゼロではありませんが、現実には多様な収入源や付加価値づくりが必要です(次章で深掘りします)。
反収を左右する技術と経営戦略──実践的アプローチ
栽培方法の違い:慣行栽培、減農薬、有機、自然栽培の比較
栽培方法には化学肥料・農薬を用いる慣行栽培、減農薬・減化学肥料の栽培、有機栽培、さらに昨今注目される「土だけで育てる」自然栽培など多様な手法があります。各手法は収量、品質、労力、コスト、販路での差別化に影響します。
たとえば自然栽培の実践例として、肥料・農薬を使わず土の力だけで1反あたり8俵(約480kg)を達成したケースがクラウドファンディングの報告で紹介されています。これは従来の「肥料がないと高収量は難しい」という常識に挑戦する事例であり、品質訴求や高価格での直販に結びつけやすい側面があります(詳細は出典参照)。
参考リンク: 自然栽培での反収達成報告(READYFORプロジェクト): プロジェクトページ
具体的な反収改善の手法(品種・土壌改良・水管理・防除)
反収を上げるための実務的なポイントは次の通りです。これらは単独で効くものではなく、総合的な管理が必要です。
- 品種選定:収量性、耐病性、食味のバランスで選ぶ。地域気候に合った品種を選ぶのが基本。
- 土壌改良:有機物施用や土作り(団粒化、排水性の改善)で根張りを改善し、環境ストレスに強い稲を育てる。
- 水管理:湛水の管理、干ばつ時のかんがい設備の確保、タイミングの良い落水・湛水の実施。
- 病害虫防除:初期防除、適期の防除、輪作や生物的防除の導入で発生を抑える。
これらの手法は、肥料を減らす方向でも効果を発揮します。特に土壌を長期視点で改善する取り組みは一度の年では効果が出にくいものの、持続的に行うことで安定した反収に結びつきます。
付加価値をつける販売戦略と兼業の勧め
稲作だけで生計を立てるのが難しい現状に対し、付加価値づくりと販路多様化は有効な戦略です。たとえば、ブランド化(産地・栽培法を明確化)、小ロットの直販、定期便(サブスクリプション)や農産加工(米粉、餅、甘酒など)への展開が挙げられます。
また、稲作は繁忙期(田植え・稲刈り)が集中する一方で農閑期が存在します。その期間に野菜や果樹の栽培、観光農園や体験型の事業、あるいは兼業で外収入を得ることで経営の安定化を図る事例が多数あります。実際、多くの農家は兼業や複数作目を組み合わせて生計を支えています(参考: 田舎暮らし情報館の分析)。
出典:稲作一本で生計立てる現実(田舎暮らし情報館): 記事ページ
補足解説と具体例の深掘り──実務者の視点で考える
ケーススタディ1:兼業・東京から通う自然栽培カップルの例
クラウドファンディングで紹介されたつくばの兼業農家「ほにほにほ」の事例では、肥料を入れず土の力だけで反収8俵を目標にし、実践と検証を続けています。彼らは兼業の形で月の半分を圃場に通うスタイルをとり、品質訴求を通じた消費者との関係構築を目指しています。
この例から学べるのは、
- 小規模でも明確な価値(無肥料・土だけの栽培)を打ち出せば市場で差別化できること、
- 兼業により生活のリスク分散が可能なこと、
- クラウドファンディングや直販は資金調達・販路開拓の有効な手段であること、
という点です。詳細はプロジェクトページで当該報告が公開されています(出典を参照)。
ケーススタディ2:収益モデルの具体計算例(理解を深めるための数値例)
以下は仮定に基づく単純試算です。地域差や年次差は無視していますが、感覚を掴むための例として提示します。
- 反収:8俵(480kg)
- 市場価格:1俵13,000円 → 反当たり収入 = 13,000円 × 8 = 104,000円
- 直販換算:白米10kgを6,000円で売る場合、480kgは48セット(10kg×48)→ 6,000円 × 48 = 288,000円(ただし精米ロス、包装・配送費用を差し引く必要あり)
この試算から分かるのは、流通を自分で持つかどうかで収入幅が大きく変わるという点です。直販に成功すれば市場価格の2〜3倍近い収益性を得ることも可能ですが、そのための人的コストと販売努力が必要です。
技術面の追加解説:種子管理、育苗、収穫後処理の重要性
反収を安定化させるためには、良質な種籾(たねもみ)選別、育苗期の管理、そして収穫後の乾燥・貯蔵管理が重要です。種子段階での品質が悪いと発芽率低下や生育不良につながり、収量が落ちます。
収穫後は適切な水分管理(籾の乾燥)、温度管理、害虫対策を施さないと、品質低下や貯蔵ロスに直結します。これらは収穫量だけでなく販売単価にも影響しますから、投資対効果を考えて設備導入(乾燥機、温度管理倉庫)を検討する価値があります。
まとめ(主要数値とポイントの整理)
ここまでのポイントを主要な数値と合わせて整理します。最後に、実務上の判断材料となるように表にまとめました。
| 項目 | 代表的な数値・目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 1反の面積 | 約990㎡(約0.1ha) | 10畝=300歩に相当 |
| 1反あたりの収穫量(反収) | 450kg〜600kg(一般的目安)、事例で480kg=8俵 | 品種・栽培法・気候で変動 |
| 市場価格(例) | 1俵(60kg) ≒ 13,000円(変動あり) | 産地・年で大きく変動 |
| 直販価格(例) | 白米10kgで5,000〜7,000円 | 直販は利益率が高いが手間も増える |
| 機械投資の目安 | トラクター・コンバインなどで数百万円〜数千万円 | 規模により大幅に変動、維持費も必要 |
| 作業時間(1反) | 素人:30〜40時間、指導や機械で23〜40時間 | 機械化・経験で短縮 |
| 生活用面積の目安 | 稲作のみで生計を立てるなら数十〜100反規模が想定される | 兼業・付加価値で小規模でも可能性あり |
最後に、参考情報として本稿で引用した公開情報を示します。これらは本文の理解を補助する参照元であり、各データは年ごと・地域ごとに変化しますから、実際の営農判断には最新の地域データや専門家の助言をあわせてください。
- 田舎暮らし情報館:「農業編-稲作一本で生計は困難か?」(収益・必要面積の試算等)
- 田んぼの面積単位の解説(歩・畝・反・町)(面積換算と反収の目安)
- READYFOR:自然栽培で反収8俵をめざすプロジェクト(自然栽培の実践例)
稲作は単に「米を作る」だけでなく、土地・人・技術・市場を結びつける複合的な営みです。数値や目安を手がかりにしつつ、地域特性・気候変動・販路設計を総合的に考えることで、持続可能な経営モデルを描くことができます。本稿がその出発点として役立てば幸いです。