高齢者の低ナトリウム血症とは?原因・症状・治療法を解説
ベストカレンダー編集部
2025年06月17日 12時09分
高齢者における低ナトリウム血症の理解
低ナトリウム血症とは、血液中のナトリウム濃度が正常値よりも低くなる状態を指します。正常なナトリウム濃度は135〜145 mEq/Lとされており、これを下回ると様々な健康問題が引き起こされます。特に高齢者はこの状態に陥りやすく、その原因や症状、治療法について理解を深めることが重要です。
高齢者が低ナトリウム血症になりやすい理由は、体内の水分量やナトリウムのバランスが崩れやすいからです。加齢に伴い、腎機能が低下し、ナトリウムの再吸収能力が減少することが影響しています。また、薬剤の影響も大きく、特に利尿薬や降圧剤の使用が多い高齢者では、ナトリウムの排泄が促進されるため、注意が必要です。
低ナトリウム血症の原因
低ナトリウム血症の原因は多岐にわたりますが、主なものを以下に示します。
- 水分の過剰摂取:特に精神疾患を抱える患者では、多飲症が見られ、体内の水分が増加し、ナトリウム濃度が相対的に低下します。
- ナトリウムの喪失:下痢や嘔吐、利尿薬の使用によってナトリウムが失われることがあります。
- 腎機能の低下:慢性腎疾患や急性腎不全により、ナトリウムの排泄が調整できなくなります。
- 心不全や肝硬変:これらの疾患では、体内の水分とナトリウムのバランスが崩れ、ナトリウム濃度が低下します。
- 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH):この状態では、抗利尿ホルモンが過剰に分泌され、水分が体内に保持され、ナトリウムが希釈されます。
低ナトリウム血症の症状
低ナトリウム血症の症状は、ナトリウム濃度の低下の程度や進行速度によって異なります。軽度の場合は無症状であることもありますが、以下のような症状が見られることがあります。
- 頭痛
- 倦怠感や疲労感
- 吐き気や嘔吐
- 筋肉の痙攣やこわばり
- 集中力の低下や混乱
- 重度の場合には意識障害や昏睡に至ることもあります。
特に高齢者では、これらの症状が重篤化するリスクが高く、早期の発見と治療が重要です。
高齢者における低ナトリウム血症の診断と治療
低ナトリウム血症の診断は、血液検査によって行われます。血清ナトリウム濃度が136 mEq/L未満であれば、低ナトリウム血症と診断されます。診断が下された後は、原因に応じた治療が必要です。
治療法は以下のように分けられます。
- 水分制限:水分の過剰摂取が原因の場合、1日の水分摂取量を制限します。
- 電解質補給:下痢や嘔吐によるナトリウム喪失の場合、適切な水分と電解質の補給が必要です。
- 薬剤の調整:利尿薬の使用が原因の場合、薬剤の見直しやナトリウムの補給が行われます。
- ホルモン療法:副腎機能低下症などの場合、ステロイドなどのホルモン補充療法が必要です。
- 専門的治療:重度の低ナトリウム血症の場合、高張食塩水の点滴投与や厳密な血清ナトリウム濃度のモニタリングが行われます。
高齢者施設での看護と予防策
高齢者施設では、看護師が低ナトリウム血症の予防に努めることが求められます。具体的には、以下の点に注意が必要です。
- 利用者の水分摂取状況を把握し、必要に応じてナトリウムを含む食事を提供する。
- 食事の内容を見直し、ナトリウムが不足しないようにする。
- 利用者の様子を観察し、活気がない、食欲が低下しているなどのサインを見逃さない。
- 服用している薬剤を確認し、低ナトリウム血症を引き起こす可能性のある薬がないかチェックする。
- 定期的に血液検査を行い、ナトリウム濃度をモニタリングする。
これらの対策を講じることで、低ナトリウム血症のリスクを軽減し、高齢者の健康を守ることができます。
低ナトリウム血症に関する最新の研究と知見
最近の研究では、低ナトリウム血症の原因や治療法に関する新しい知見が得られています。例えば、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)に関する研究が進んでおり、特定の薬剤がこの状態を引き起こすメカニズムが解明されています。また、ナトリウム濃度の低下が脳に与える影響についても多くの研究が行われており、特に高齢者においては認知機能の低下や行動の変化が見られることが報告されています。
さらに、低ナトリウム血症の治療においては、従来の水分制限や電解質補給に加え、バソプレシンV2受容体拮抗薬などの新しい薬剤が使用されるようになっています。これにより、より効果的な治療が可能となり、患者の生活の質を向上させることが期待されています。
具体的な症例の紹介
例えば、90歳の女性Aさんのケースでは、高血圧の治療のために服用していたARB(アルドステロン受容体ブロッカー)が原因で低ナトリウム血症を引き起こしました。Aさんは倦怠感を訴え、食事量が減少していたため、家族が心配し、総合病院を受診しました。血液検査の結果、ナトリウム濃度が125 mEq/Lと低下していることが判明し、ARBの中止が指導されました。その後、ナトリウム濃度は改善し、倦怠感も軽減しました。このように、薬剤の見直しが低ナトリウム血症の改善に寄与することがあります。
まとめと今後の展望
低ナトリウム血症は、高齢者において特に注意が必要な健康問題です。原因や症状、治療法についての理解を深めることで、早期発見と適切な対応が可能となります。高齢者施設や在宅医療においては、看護師や介護者が日常的に利用者の健康状態を観察し、必要なサポートを行うことが求められます。
今後も、低ナトリウム血症に関する研究が進むことで、より効果的な治療法や予防策が確立されることが期待されます。高齢者の健康を守るために、医療従事者や家族が協力し合い、適切なケアを提供していくことが重要です。
| 要点 | 詳細 |
|---|---|
| 低ナトリウム血症の定義 | 血液中のナトリウム濃度が135 mEq/L未満の状態 |
| 主な原因 | 水分過剰摂取、ナトリウム喪失、腎機能低下、心不全、肝硬変、SIADH |
| 症状 | 頭痛、倦怠感、吐き気、筋肉の痙攣、意識障害 |
| 診断方法 | 血液検査によるナトリウム濃度の測定 |
| 治療法 | 水分制限、電解質補給、薬剤調整、ホルモン療法 |
| 予防策 | 水分摂取状況の把握、食事内容の見直し、定期的な血液検査 |
低ナトリウム血症は、特に高齢者において注意が必要な状態です。日常的な観察と適切な対応を通じて、健康を維持するための努力が求められます。