万博パビリオン『未来の都市』の見どころと体験案内
ベストカレンダー編集部
2025年08月11日 19時35分
未来を見通す舞台としてのパビリオン全体像とコンセプト
何を見せる場所なのか ― テーマと狙い
「未来の都市」パビリオンは、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を受け、Society 5.0のビジョンを来場者が体感し、対話し、共に考えるための大規模ショーケースです。公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が主導し、協賛12者と共同で構成されたイノベーション・コンプレックスとして設計されています。
ここでの問いかけは単純です。都市は誰のためにあるのか、技術は誰の幸せに資するのか。答えは展示を通じて断片的に示されますが、来場者自身の選択や体験が最も重要な構成要素になっています。公式サイトでは「一人ひとりが“幸せ”をかなえること(Leave no one behind/誰一人取り残さず)」が掲げられています(出典:EXPO2025 未来の都市)。
外観デザインにも意味があります。2層の被膜(外側はメッシュスクリーン、内側に透明なコリドール)やミスト・照明演出、断熱性に配慮した空間設計により、物理(フィジカル)と情報(サイバー)が重なり合うイメージを形にしています。これが来場者の没入感を高め、物語体験へと自然につなげます(出典:未来の都市 公式サイト)。
構成と来場者体験の流れ
パビリオンは大きく「テーマ展示」「コモン展示(2箇所)」「協賛者による個別展示群」に分かれています。入場から出口まで進むほど、歴史→現在→未来という時間軸に沿ったストーリーが深まり、来場者の関与度が高まる設計です。
具体的には、入場直後に92mの巨大ビジョンで地球の歴史からSociety 5.0へと至る「40億年・幸せの旅」を体験し、その先で4つのキューブや体験型シアター、ロボットヘッド搭乗体験、企業別の展示を巡ることで、暮らし・移動・エネルギー・ものづくり・食と農といった領域別の未来像を実感できます(出典:プレスリリース)。
参加企業と協働の意味
協賛は日立、KDDI、クボタ、川崎重工、商船三井、関西電力送配電、日本特殊陶業、カナデビア、IHI、神戸製鋼、青木あすなろ建設・小松製作所連合、CPコンクリートコンソーシアムなど多岐にわたります。これにより、単一企業のショールームに留まらない「都市の多元性」を表現しています。
協業の利点は、技術横断的な体験を可能にする点にあります。たとえば、移動(川崎重工)とエネルギー(関西電力)、食と農(クボタ)がそれぞれの技術を持ち寄ることで、実際の都市運営で必要な“連携の価値”を視覚化できます。共同展示の代表例として、日立とKDDIによるMirai Theater/Mirai Arcadeがあり、来場者の意思決定が未来のシナリオに反映される仕組みがあります(出典:プレスリリース、公式サイト)。
来場者の体験を掘り下げる ― 代表的アトラクションと実際の声
テーマ展示と大画面体験の没入性
入口で迎える92mの大画面「40億年・幸せの旅」は、地球の長大な歴史とSociety 5.0への流れを視覚化する試みです。タイムラプス的な映像表現や空間音響により、来場者は時間の推移を肌で感じることができます。
この種の体験は、単に情報を与えるだけでなく感情的な共感を引き出す点が重要です。映像と来場者の身体的配置(例えば自分の姿が大型モニターに映る演出など)を組み合わせることで、「自分ごと化」が促進されます(参考:旅色レポート)。
Mirai Theater / Mirai Arcade ― 参加が未来を変える体験
日立とKDDIの共同展示は「未来は自分たちで変えられる」をキーワードに、来場者が端末で選択を行うことで物語の結末が変わる参加型シアター(Mirai Theater)や協力型のゲーム体験(Mirai Arcade)を提供します。シアターでは同時に約120名が体験できる仕組みも話題です(出典:プレスリリース)。
ゲーム的要素は教育的効果を高めます。選択の結果をその場で可視化することで、政策・技術・個人行動が社会に与える影響を直感的に学べます。これは学校教育や企業研修での応用可能性も大きく、展示が単なる娯楽に留まらない価値を持つことを示唆します。
コモン展示02とロボットヘッド ― 観察から体験へ
コモン展示02では高さ約5.5mのロボットヘッドに搭乗して、4つのストーリーからなるバーチャルな都市散策を行います。特徴的なのは環境負荷低減のためにダンボール素材を採用したこと。これは展示設計自体もサステナビリティを意識している良い例です(出典:プレスリリース)。
この搭乗体験は大人にも子どもにも好評で、視点を変える(小さくなったり巨大になったり空を飛んだり地下に潜ったりする演出)ことで、都市の多層性やスケールに対する理解を深めさせます。体験後のアンケート設計次第では、来場者の価値観変容をトラッキングできる点も示唆的です。
来場者の生の声 ― ファミリー視点の実体験
実際の来場レポートによれば、スマホ操作で参加する体験型シアターやKUBOTAの農業ロボットゲームが子どもに人気で、整理券が配布されるほどの盛況だったとのこと。所要時間は体験の有無で大きく変わり、企業ブースを全て回ると1時間半程度見ておくのが安心だと報告されています(出典:個人ブログレポート)。
また、パビリオン内にトイレがない点、スマホバッテリー消耗が激しい点、近隣フードコートの混雑状況と価格帯の実感など、来場計画に役立つ実務的なアドバイスも共有されています。これらは展示設計だけでなく運営面の改善余地や来場者サービスの最適化につながる示唆です。
技術領域別に見る展示の内容と社会的インパクト
交通・モビリティ:次世代の移動体験
川崎重工の実物大モビリティや、商船三井のハイブリッドプラント船「ウィンドハンター」模型は、輸送の脱炭素化や利便性向上の未来像を提示します。旅色レポートで紹介されたALICE SYSTEMの概念は、「乗り継ぎ不要」「ドア・ツー・ドアのシームレス移動」を目指すもので、移動のバリアフリー化や地域間連携に寄与することが期待されます。
例えば高齢者や障がいのある方にとって、自動乗継やロボットがサポートする移動は生活の自立度を高める要素です。都市計画の観点では、こうしたモビリティが普及すると公共空間や駐車需要、道路設計の考え方も変化します。
環境・エネルギー:循環と地域のレジリエンス
関西電力のスマートポール、カナデビアの「世界樹」や日本特殊陶業による触れる3D展示などは、エネルギーの地産地消、廃棄物の資源化、地域の情報基盤強化をテーマにしています。世界樹の体験は、家庭から出るゴミがどのようにエネルギーや材料に変わるかをゲーム感覚で学べる点が特徴です。
こうした取り組みは「小さな行動の累積」が大きな環境インパクトを生むことを示します。自治体のごみ政策や企業のサプライチェーン管理において、来場者の理解促進は行動変容を促す初期条件になります。
ものづくり・まちづくり:耐災害性と循環する建築
神戸製鋼のLED球体やボールコースター、青木あすなろ建設と小松製作所による水中工事ロボット模型、CPコンクリートコンソーシアムのCO2吸収型コンクリート展示などは、建設分野のイノベーションと持続可能性を提示します。
CPコンクリートのような「建築素材がつくる負の炭素吸収」は、建物のライフサイクル全体での温室効果ガス削減に寄与します。都市レベルでの普及は舗装、港湾、トンネルといったインフラの長期的な炭素収支を改善します。
食と農:技術による食料供給の強靭化
クボタは農業ロボットとシミュレーションゲームを通じて未来の食と農の在り方を提示します。来場者は収穫や耕作の自動化、精密農業の利点を体験でき、食料生産の効率化・安定化が実感できます。
具体例としては、遠隔操作による作業、センサーでの土壌管理、ドローンやロボットによる施肥・収穫が挙げられ、地域の高齢化による労働力不足への対策として期待されています。体験型ゲームは、子どもたちの農業理解と将来の人材発掘にも寄与します。
デジタルとリアルの接続:バーチャル未来の都市
KDDIのメタバースプラットフォーム「αU(アルファユー)」上で公開される「バーチャル未来の都市」は、物理展示を補完する重要な役割を担います。実際に会場に行けない人でも、アバターを通じて社会課題の解決を疑似体験可能です(出典:プレスリリース)。
バーチャル空間と物理空間を行き来できる設計は、教育、広報、継続的な市民参加を促す点で有効です。企業のPRだけでなく、地域・学校・企業連携のプラットフォームとしての応用も見込まれます。
まとめと整理:主要アトラクションと実務的な留意点
実務的な来場準備と運営上の知見
実際の来場者レポートを踏まえると、所要時間の管理やトイレ配置、モバイル充電スポットの確保、整理券配布・待ち時間対策など運営面の配慮が重要です。特に子連れ来場者はトイレや休憩、食事の動線が体験満足度を左右します。
運営側には、展示ごとの推奨滞在時間の明示や多言語対応、アクセシビリティ(車椅子動線、字幕・音声案内)の充実が求められます。これらは来場者体験を均質化し、誰一人取り残さない都市の価値に直結します。
展示・技術の横断的インパクト
技術展示は単体での魅力だけでなく、連携したときの効果が大きな価値を生みます。たとえば、再生可能エネルギー+スマートポール+自律移動体が連動することで、災害時に強い都市ネットワークが構築可能になります。こうしたシステム思考は、未来の都市づくりに不可欠です。
また、学習・教育的側面も見逃せません。子どもが遊びながら学べるコンテンツの存在は、将来的な技術理解者・担い手の裾野を広げます。企業にとっては次世代人材リクルーティングの場にもなります。
参考リンク(情報源)
本稿では以下の公式情報や現地レポートを参照しました。原典にあたることで、展示の最新情報や体験の詳細が確認できます。
要点整理(以下の表で主要アトラクションとポイントをまとめます)
以下の表は、パビリオン内の主要アトラクションと来場者が知っておくべきポイントを簡潔に示したものです。出典は前節に示した公式情報および現地レポートです。
| アトラクション | 主な内容 | 来場者への留意点 |
|---|---|---|
| 40億年・幸せの旅(テーマ展示) | 92mの大画面による地球・社会の歴史とSociety 5.0の提示 | 映像・音響が強いため、小さな子どもは驚く場合あり。開始位置での視認性に注意。 |
| Mirai Theater / Mirai Arcade | 参加型シアター(120人規模)、協力型ゲームで未来の選択を体験 | スマホ連携や端末操作が必要。事前充電と端末操作に不慣れな人は説明を確認。 |
| コモン展示01(4つのキューブ) | 2035年の暮らし・移動・医療などを4つのスクリーンで提示 | 視点や角度で立体的に見える演出あり。写真撮影のタイミングを考慮。 |
| コモン展示02(ロボットヘッド搭乗) | ダンボール素材の巨大ロボットヘッドに搭乗して仮想都市を巡る | 高低変化や乗降動作があるため、歩行補助や高所恐怖のある方は注意。 |
| 川崎重工・商船三井・関西電力等(個者展示) | 次世代モビリティ、風力+水素船、スマートポールなど各分野の実例展示 | 人気ブースは整理券や待ち時間が発生。時間配分を考慮に入れる。 |
| クボタ(食と農) | 農業ロボットのシミュレーションゲーム、未来のコンセプトモデル | 子どもに人気。整理券配布や待ち時間を想定。 |
| CPコンクリート等(ものづくり) | CO2吸収型コンクリートや水中工事ロボット模型などの技術展示 | 素材や耐久性の説明をじっくり聞くと理解が深まる。専門的質問はスタッフへ。 |
| バーチャル未来の都市(αU) | KDDIのプラットフォーム上で仮想空間体験、会場外からのシアター体験も可能 | アプリダウンロードが必要。現地での体験と組み合わせると理解が深化。 |
この表は主要部分を抜粋したものです。各展示の技術的背景や導入効果、今後の展開については、公式サイトやプレスリリースを参照のうえ、展示現地で説明を受けることをおすすめします(公式情報:EXPO2025公式サイト)。
総括すると、「未来の都市」パビリオンは技術のショーケースにとどまらず、来場者自身が意思決定を通じて学び、対話し、未来のあり方を共創する場です。現地体験とバーチャル体験の両輪、企業と自治体・市民の協働、そして教育的な要素の融合が、このパビリオンの最大の特徴と言えるでしょう。
最後に、万博は一過性のイベントでありながら、その場で芽吹いたアイデアやネットワークが次の都市実装へとつながっていく場でもあります。展示を見て感じたこと、疑問に思ったことはぜひ記録して、周囲の人と共有してください。それが次の“未来の都市”をつくる原動力になります。