月遅れ盆の迎え火・送り火｜地域差と時刻の目安

お盆の時期が分かれる理由と、地域ごとの慣習の全体像

新暦と旧暦のズレが生んだ、7月盆と8月盆の違い

日本のお盆は全国一律の行事ではなく、地域によって「7月に行う（新盆・7月盆）」「8月に行う（旧盆・8月盆／月遅れ盆）」と分かれます。この差の根本原因は明治時代の改暦（旧暦→新暦）です。旧暦の7月15日に行っていた行事が、新暦への置き換えによって暦上で1か月ずれ、地域や生活様式の違いに応じて定着しました。

都市部では7月盆が残り、農村や一部の地方では8月盆を採る傾向があります。理由としては農作業の繁忙期を避けるため、あるいは旧来の慣習を保持する意識など複合的です。

代表的な地域別日程（例：2025年）

年によって多少のずれはありますが、分かりやすい目安を示します。2025年（令和7年）の例を参考にすると以下のようになります。

• 全国的な標準（旧盆・月遅れ盆）：8月13日～16日（多くの企業の夏季休暇もこの期間に合わせられます）
• 関東の一部（新盆）：7月13日～16日（東京一部・横浜など都市部の慣習）
• 沖縄・奄美など（旧暦に合わせる）：旧暦の7月13日～15日（西暦では年によって8月中旬〜9月上旬に該当）

上記の地域差や具体日程については、実務的な案内を出している専門サイトでも確認できます（例：お仏壇のはせがわや葬儀ガイド等）。参考リンク：お仏壇のはせがわ（お盆期間の地域別解説）。

なぜ地域で差が残るのか：社会・産業・宗教の複合要因

改暦の歴史的経緯だけでなく、地域ごとの生活リズム（農業や漁業の繁忙期）、交通手段や都市化の進行、さらに宗派や寺院の判断が関係しています。例えば都市部では「7月に休みを取りやすい」社会的要因があったため新暦の7月盆が残りやすく、農村では収穫期の都合で1か月遅らせた8月盆が定着したとされます。

また、沖縄のように旧暦を重視する地域では、月の満ち欠けに合わせた宗教行事（ウンケー、ナカビ、ウークイ）が色濃く残っており、これは単なる暦の違い以上に文化的連続性を示します。

迎え火・送り火の実務：用具・場所・最適な時刻

迎え火と送り火の意味と基本的な流れ

迎え火はご先祖様の霊を家に迎えるための目印、送り火は滞在を終えてあの世へ帰っていただくための区切りです。伝統的にはお盆初日に迎え火、最終日に送り火を焚き、盆提灯や精霊馬（きゅうりの馬／なすの牛）などを用いておもてなしをします。

迎え火の直後に盆提灯の火を移して室内に案内し、盆の期間中はお仏壇を中心にお供えをし、最後に送り火で片づけをします。迎え火・送り火は単なる形式ではなく、家族が集う節目としての役割も果たします。

具体的な道具とその使い方（オガラ・焙烙など）

伝統的に用いられる道具と役割は次の通りです。

オガラ

麻の茎の皮を剥いだもので、着火しやすく煙が出やすい。迎え火・送り火の燃料として古くから使われている。

焙烙（ほうろく）

素焼きの浅い皿状の耐熱器具で、オガラを載せて焚くと土地や床を汚さず安全に火を扱える。

盆提灯・白提灯

ご先祖様の目印。初盆（新盆）では特に白提灯を用いる地域がある。電気式のものも普及している。

道具の取り扱いは安全第一です。焚く場所に可燃物がないか確認し、風の有無や周辺住民への配慮を行いましょう。

理想的な時刻と実際的な目安（夕方〜夜）

迎え火・送り火の明確な法則はありませんが、一般的な目安は日没前後から夜にかけて、特に17時〜20時頃が多くの地域で採用されています。薄暮時は火が見えやすく、暗くなりすぎる前の時間帯は安全面でも適しています。

各種情報源でも「夕方（17時〜19時頃）に行うのが一般的」とされており、例えば葬儀関連の解説でも同様に記載されています。時間帯は地域の慣習や家族の都合に合わせて調整可能です。

現代的な対応：集合住宅・宗派別の差・代替方法

マンション・アパートで火を使えない場合の代替案

近年は集合住宅の増加に伴い、屋外で火を焚くことが難しい家庭が増えました。そのため次のような代替手段が普及しています。

• 電気式の盆提灯やLEDローソクを使用する
• 線香を短時間だけ焚き、換気や防火に配慮する
• 玄関先に提灯を飾り、火を灯さずに目印とする
• 近隣の寺院で合同の迎え火や法要に参加する

いずれの場合も管理規約や近隣への配慮が重要です。火気禁止の場所では無理をせず、心持ちを形で示す方法（お仏壇への丁寧な手入れやお供えなど）で代替するのがよいでしょう。

宗派による違い：浄土真宗などの例外

浄土真宗系の一部では迎え火・送り火を行わない習慣があります。浄土真宗の教義では、亡くなった人はすぐに阿弥陀仏の浄土へ往生するとされるため、霊の帰還という考え方が他宗派と異なるからです。

とはいえ、盆提灯を飾る、供養のために集まるという形でお盆を尊重する家庭も多く、宗派ごとの慣習は多様です。不明な点は菩提寺や地域の寺院に相談するのが安全です。

安全面と近隣配慮の具体的ポイント

迎え火・送り火で気をつけるべき点は以下です。

1. 風向きを確認する（火花や煙が隣家に飛ばないか）
2. 焚く場所の周囲に可燃物がないか確認する
3. 消火用具（バケツの水や消火器）を用意する
4. 集合住宅の場合は事前に管理人・隣人へ断りを入れる

これらを守ることで伝統を次世代へ伝えつつ安全に実施できます。火を使わない代替法でも、心を込めた準備と後片付けを行うことが供養の本質です。

準備から当日の流れ、具体例とチェックリスト

事前準備：いつ何を揃えるか（1週間前〜当日）

余裕を持って準備すると慌てず済みます。代表的な準備スケジュールは以下の通りです。

• 1〜2週間前：盆提灯・お供え物・お線香の手配、墓地の清掃日程調整
• 3〜5日前：精霊馬（きゅうり・なす）の準備、仏壇周りの掃除、法要の連絡
• 前日：食品・手土産の用意、当日の役割分担の確認
• 当日：迎え火・墓参り・仏事（読経）の受付・送り火・片付け

新盆（初盆）の家庭は、特に提灯や法要の準備に時間がかかりますので早めの相談をお勧めします。

当日の動き（迎え盆→盆中→送り盆）と具体的な作法例

典型的な当日の流れは次の通りです。家族で役割分担をして進めるとスムーズです。

1. 迎え盆（初日）：墓参り→迎え火（17時前後）→盆提灯を室内へ移す→仏壇にお供え
2. 盆中日（中日）：親族での集まり、法要・会食、思い出を語らう
3. 送り盆（最終日）：送り火（夕方〜夜）→盆飾りの片付け／お焚き上げの手配

迎え火と送り火での簡単な所作例：

• 迎え火：門前で焙烙にオガラをセットし点火、盆提灯に火を移してお仏壇へ案内
• 送り火：盆提灯の火を焙烙のオガラへ移しお見送り、合掌して火を消す

よくある質問（Q&A方式で実用的に）

Q：迎え火は必ず焚かなければならないの？

A：必須ではありません。集合住宅や高齢者家庭では火を使わない方法（電気提灯、短時間の線香、お仏壇での礼拝）で代替できます。大事なのは供養の心です。

ただし地域の慣習に従うことが家族間・近隣との摩擦を避ける意味では有効です。

Q：迎え火・送り火は何時にやるのが無難？

A：一般に17時〜19時頃が目安です。暗くなりすぎない時間帯で火の見え方も良く、安全性が確保しやすい時間帯です。

ただし地域・宗派や家庭の事情で朝や夜遅くに行う場合もあります。

Q：初盆の提灯は誰が用意する？

A：伝統的には親族（近親者）が贈る習慣が強いですが、地域や家族の合意で現金を渡すなど実務的な対応も広がっています。

迷う場合は菩提寺や親族で相談し、負担を分け合うのが良いでしょう。

実例：地域行事と観光的要素（京都、沖縄、東京の例）

各地のお盆行事は観光資源ともなっています。京都では精妙な伝統行事や行事前後の盆踊り、送り火（大文字など）による風景が知られています。沖縄では旧暦に従うため年ごとに時期が変動し、エイサー（太鼓を打って踊る盆踊り）が盛大に催されます。東京では7月盆に合わせた地域の盆踊りや縁日が行われ、家族が集う機会として現代の都市生活と結びついています。

こうした地域行事に参加することで、個人の家内儀礼が公共の祭礼と結び付く場面を体験できます。行事参加の際は、地域ルールやマナーを事前に確認しておくと安心です。

まとめ：重要ポイントの表形式整理と、最後に一言

ここまでの主要なポイントを分かりやすく表にまとめました。ご家庭での行事運営や地域行事への参加、また初めてお盆を迎える人へのチェックリストとしてご活用ください。

最後に、実務的なチェックリスト（印刷して使える簡易版）を示します。迎え盆当日までに以下を確認すると準備が楽になります。

• 盆提灯・線香・ろうそくは用意済みか
• オガラや焙烙を使う場合、安全な設置場所を確保したか
• 墓地の清掃・お墓参りの日時を家族と確認したか
• 初盆がある場合、寺院へ連絡して供養の取り決めをしたか
• 集合住宅なら管理規約と近隣へ事前連絡を行ったか

お盆は形式だけでなく、家族や親族が集まり故人を偲ぶ時間です。伝統的な作法や地域の習慣を尊重しつつ、安全と現実的な事情に合わせた方法で行うことが大切です。より詳しい地方別の慣習や実務的な手順は、この記事で触れた参考資料（例：お仏壇のはせがわや各種お葬式ガイド）を参照してください。心を込めた準備が、ご先祖様への最高の供養になります。

参考：公的・民間の情報を元に作成（本稿はあくまで参考情報であり、詳しい作法や実施可否は各宗派や自治体・管理組合にご確認ください）