万博で味わう砂の現地感:ヨルダン館とクウェート館の演出

万博で味わう砂の現地感:ヨルダン館とクウェート館の演出
万博で本物の砂を使ってるのって何がすごいの?
視覚だけでなく触覚を介した即時的な没入感が最大の魅力。砂の感触や寝転がる動作が“現地にいる”錯覚を生み、子どもから高齢者まで参加型で記憶に残る体験を提供する。
ヨルダンの砂ってどうやって日本に持ってきたの?衛生は大丈夫?
基本は搬出前の洗浄・天日乾燥と微生物検査、検疫書類の整備を経て船便で搬入。日本側の検疫・衛生基準に合わせて処理・検査を行い、会場でも衛生対策や安全配慮を徹底している。

砂に触れることで生まれる「現地感」—体験がもたらす五感の変化

触覚が引き出す旅情と即時的な没入感

大阪・関西万博の中東系パビリオン、特にヨルダン館やクウェート館で共通して話題になっているのは、『本物の砂』を使った展示です。砂を実際に手で触れたり、座って寝転がるといった行為は、スクリーンや映像だけでは得られない即時的な没入感を生みます。さらさらとした感触、冷たさや粒の密度は来場者の記憶に強く残り、単なる視覚的な展示を超えた体験を提供します。

例えばヨルダン館では、ワディ・ラムの赤い砂が敷き詰められた空間に座り、360度のシアター映像と組み合わせることで「現地にいる」ような錯覚が生まれます。クウェート館でも同様に、砂をかき分けると映像と連動してサソリや蛇が現れるなど、触覚と視覚が組み合わさった演出が来場者の好奇心を刺激します。

心理的効果と年齢層別の反応

触覚刺激は幼児から高齢者まで幅広い年齢層に影響を与えます。子どもは宝探し要素や滑り台など身体を使う遊びに夢中になり、大人は寝転がってプラネタリウム風の天井映像を鑑賞することでリラックス効果を得ることが多いです。記事レポートでは、家族連れからカップル、1人旅の来場者まで、さまざまな反応が見られると報じられています。

触れることによる安心感や好奇心の喚起は、単なる「見学」よりも深い記憶を残します。万博のような短時間で多くを体験する場では、こうした五感を使った展示がとりわけ高い満足度を生み出す傾向があります。

実際の来場レポートから見る体験の流れ

実際の体験レポート(例: ブログやメディア記事)を整理すると、概ね次のような流れになります。

  1. 入口で国紹介の映像を視聴
  2. 砂に触れる体験コーナー(インタラクティブ要素あり)
  3. 展示で歴史や文化を学ぶエリア
  4. 休憩スペース・体験アクティビティ(滑り台など)
  5. 最後に寝転がって大型スクリーンの映像を鑑賞

この流れは来場者の期待感を段階的に高め、最後のシアターで感情を収束させる設計になっています。クウェート館やヨルダン館の報告では、体験時間は映像を含めて10〜15分ほどだが、体験以外に砂場で長居する人もいるとされています。

パビリオンの演出設計と具体的なアトラクション

建築と空間デザインの狙い

クウェート館は「灯台」をテーマにした外観やウエーブ状の造形が遠目にも印象的で、訪問者に期待感を抱かせます。一方ヨルダン館は遺跡の壁を模した内装や小窓のモザイクなど、現地の歴史的・文化的モチーフを細部に反映しており、視覚的なリアリティを高めています。

どちらの館も単に“見せる”だけでなく、来場者が身体や行動を通じてその国を「体感」できるように設計されている点が共通しています。休憩スペースや光の扱い、音響演出に至るまで来場者の滞在体験を計算して配置されています。

インタラクティブ要素とデジタル演出

クウェート館の砂場では、手の動きに連動して映像が動く仕組みや、砂をかき分けると生き物が現れる「宝探し」要素など、デジタルとアナログが融合した演出が採用されています。これにより、子どもから大人まで直感的に楽しめる場が作られています。

ヨルダン館では、砂の上に座って見る360度スクリーン映像や、アラビア語の説明が石を叩くと日本語に翻訳されるインタラクションなど、来場者が能動的に参加する仕組みが多数あります。こうしたインタラクションは教育的効果とエンタメ性を両立しています。

飲食・物販と体験の延長

パビリオン内に併設されたカフェで提供されるデーツシェイクや、砂を使ったカラフルな瓶詰めなどの物販は、来場体験を持ち帰れるグッズとして人気です。真珠や伝統的なスカーフなどの販促も、その国の文化を小さな「おみやげ」として残します。

また実際に現地衣装を着て写真撮影ができるサービスや、スタッフとの交流によって、来場者は展示をよりパーソナルに消化できます。こうした接客や物販は、観光動機の喚起や現地旅行への誘導にもつながる重要な要素です。

搬入・検疫・外交:砂を受け入れるための現実的な準備

砂の輸送と衛生処理の実務

本物の砂を日本に持ち込むにはさまざまなハードルがあります。報道や関係者の説明によれば、ヨルダンのワディ・ラムの赤い砂は当初およそ150トンを船便で運んだとの情報もあり(別報では22トンの洗浄済み砂を展示に使用したと記載)、最終的に展示に用いられた砂は日本の規制に合わせて全て洗浄・天日干しし、微生物やバクテリアを取り除いたうえで搬入・展示されています(NHK報道参照)。

実際の搬入作業では、スタッフがバケツで砂を運び床に撒くといった地道な作業も必要でした。こうした物流工程は、単なる物品搬入とは異なり、衛生面の管理、現地との調整、船積み手配、通関手続きなどを包括的に管理する必要があります。

検疫・法規制と安全性の考慮

土壌や生物が持ち込まれる場合、外来生物や植物検疫に関する規制が厳しく適用されます。微生物や病原体を防ぐための洗浄・乾燥工程、検査書類の整備、輸入許可の取得などが事前に求められ、万博の主催側と出展国双方の入念な準備が不可欠です。

加えて来場者の安全性も重要な検討項目です。砂の粒子によるアレルギーや、滑りやすさによる転倒リスク、衛生面での配慮(消毒や手洗い場の設置)など、運営面での細やかな設計が必要になります。

ソフトパワーとしての活用と観光誘致効果

これらのパビリオンは、単なる展示に留まらず、各国が自国の文化・観光資源を紹介するための重要な舞台です。実物の砂を用いることで「行ってみたい」という欲求を喚起し、万博後の実際の訪問(ツアーや個人旅行)につなげる意図も明白です。ブログやSNSの体験記では「ヨルダンに行きたくなった」「クウェート旅行を検討し始めた」といった記述が多く見られます。

また外交的な面では、こうした展示によって文化交流が深まり、地域間の理解促進や観光・経済面での連携強化が期待されます。万博は国どうしの“文化のしばり”を柔らかくする場としての役割も果たします。

まとめと要点整理(パビリオン情報の比較表付き)

ここまで述べてきたことを、来場者の視点、運営・搬入の視点、文化的・外交的な視点から整理します。それぞれのパビリオンは共通して「触れる砂」という強い体験要素を持ち、来場者に強い印象を残していますが、演出の細部や運用の仕方には差があります。以下の表に主要なポイントをまとめました。

項目 ヨルダン館 クウェート館
使用した砂 ワディ・ラムの赤い砂(搬入前に洗浄・天日干し/報道で22トンと記載) 本物の砂を使用(インタラクティブな砂場で触れる体験)
主な演出 砂の上で座る360度シアター、遺跡風の壁、死海の塩を使った展示 手の動きと連動する映像、滑り台、寝転がって観る大型スクリーン、願いを星にする演出
体験時間の目安 映像含め概ね10〜15分、砂場での滞在は人による 映像含め10〜15分、他アクティビティは個人次第(並び時間は1時間前後の報告あり)
待ち時間の傾向 非常に人気で予約が取りづらいとの報告あり 予約可能だが、予約なしでも列に並べば入れる事例あり(約1時間程度の待ち時間報告)
物販・飲食 砂を用いた演出のグッズ、デーツ等の食材紹介 カラフルな砂の瓶詰め、アラビックコーヒー、デーツシェイクなど
運営上の留意点 砂の洗浄・検疫、展示の衛生管理 同上。来場者の安全(転倒・アレルギー対応)

参考情報として、搬入や展示に関する報道記事や現地レポートもあります。例えばNHKはヨルダン館の砂について、ワディ・ラムの砂を日本に運び、洗浄して展示している旨を報じています(NHK関西の報道)。また、日経や複数の体験レポートにはクウェート館のインタラクティブ性や建築デザインに関する記述があり、来場者目線と運営目線の両方から理解を深めることができます。

出典例: NHK関西(ヨルダン館の砂に関する報道) — https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20250410/2000093134.html

万博におけるこうした実物展示は、単なる見世物ではなく文化理解の架け橋となる可能性があります。来場者は五感を通じて他国に対する興味を持ち、将来的な観光や交流につながるかもしれません。運営側も衛生・安全・法規対応を徹底することで、より多くの来場者に安心して体験してもらえるようになります。

最後に、パビリオンを楽しむための実用的なアドバイスを挙げます。事前予約が取れれば便利ですが、予約がなくても並べば体験できる可能性が高いこと、休憩スペースや飲食店が併設されている場合は滞在時間を調整して体験を深められること、砂を触る体験では靴や衣服に砂が付く可能性があるため事前準備(軽い上着や着替え用のハンカチ等)をしておくと快適です。

これらを踏まえて、万博という短期のイベントの中でも「触れる砂」が与える体験の価値は大きく、今後の展示デザインや観光プロモーションのヒントを多く含んでいると言えるでしょう。