4月9日開幕 猪飼野詩集 展:詩と写真で辿る記憶
ベストカレンダー編集部
2026年4月8日 13:48
猪飼野詩集展
開催期間:4月9日〜5月12日
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消えた地名「猪飼野」をめぐる歴史と地域性
「猪飼野(いかいの)」は、現在の大阪市生野区一帯にかつて存在した在日韓国人の密集居住地域を指す地名であり、1973年の行政区域改編に伴い地図上から消えた歴史を持ちます。本展示は、その消失した地名と地層のように重なる記憶、移住と定着の歴史、そして個々の生活に刻まれた日常の痕跡を取り上げます。
さらに古い時代にさかのぼると、この地域は5世紀頃に朝鮮半島から渡来した百済の人々が切り拓いた「百済郷(くだらごう)」の跡地としても知られています。現在は「大阪コリアタウン」として多くの人が訪れる観光地となり、文化的な賑わいを見せていますが、同時に移住者たちが形成した地域社会の記憶やアイデンティティは、行政や都市化の変化によって地名や風景のかたちが変容してきました。
地名の消失と記憶の継承
地名の消滅は単なる表記の変更ではなく、そこに暮らした人々の生活史や結びつき、その場所が担ってきた社会的機能を失わせることがあります。本展は、詩と写真という二つの表現を通じて、猪飼野に刻まれた記憶の層を可視化し、当時の生活や地域的つながりを多角的に照らし出します。
猪飼野の歴史や地域性、そして今日のコリアタウンとしての姿を理解するためには、地図や行政史料だけでなく、生活者の言葉や視覚資料が不可欠です。本展は詩集や写真集といった個別の作品群を組み合わせることで、地域の歴史を個々人の経験として再構築します。
詩と写真が交差する展示構成と主な出品内容
展示タイトルは『金時鐘詩篇の風景、藤本巧写真展「猪飼野詩集」』で、主に詩人・金時鐘(キム・シジョン)氏の詩と写真家・藤本巧(ふじもと たくみ)氏の写真を軸に据えています。会期は2026年4月9日(木)から5月12日(火)まで、駐大阪韓国文化院1階のミリネギャラリーにて開催されます。
本展における主な出品内容は以下のとおりです。展示は金氏の1978年刊行の詩集『猪飼野詩集』に収められた8編の詩を基点に据え、藤本氏が2025年に刊行した写真集『猪飼野残景(2025年)』からの厳選された作品を組み合わせて構成されています。
- 写真作品:藤本巧氏による約60点の写真を展示。地域の変化、建物や路地、人々の痕跡を捉えた作品群。
- 詩の朗読と映像の融合:金時鐘氏の肉声朗読と藤本氏の映像を組み合わせたメディア作品5編を公開。
- 資料展示:詩集および写真集に関する背景資料、ポスター等の関連資料を掲示。
詩と写真という異なる媒体の接続は、時間的・感覚的な距離を縮め、来場者にその場の「雰囲気」や「記憶の残り香」を伝えることを目指しています。詩の言葉が写真の視覚情報に新たな響きを与え、写真が詩の具体性を補完する構成です。
制作者の経歴と作品の意義
金時鐘氏は在日韓国人文学を代表する詩人の一人であり、日本の高見順賞(2011年)や大佛次郎賞(2015年)などを受賞されています。第4詩集である『猪飼野詩集(1978年)』は、猪飼野を背景にディアスポラの経験とアイデンティティの問題を綴った作品群として位置づけられます。
一方の藤本巧氏は土門拳賞(2020年)受賞の写真家で、約40年にわたり猪飼野地域の風景や人々の日常を記録してきました。長年にわたる撮影は、地域の変貌と残存する風景とを対照的に示すアーカイブとしての価値を持ちます。今回の展示で提示される60点の写真は、個別の瞬間を切り取ると同時に時間の経過を可視化する意図を持っています。
会期中の関連プログラムと実際に歩くフィールドワーク
会期にあわせ、複数の関連プログラムが企画されています。初日とそれに続く日程で行われる記念講演会やフィールドワークは、展示が提示する視点を補完し、来場者が猪飼野の空間を直接体験できる機会を提供します。
主なプログラム日程は次のとおりです。これらは展示を理解するうえで重要な補助線として機能します。
- 4月9日(木):開幕式(展示初日)
- 4月10日(金):藤本巧氏による記念講演会『詩人・金時鐘と写真家・藤本巧が綴った猪飼野』
- 4月18日(土):フィールドワーク『藤本巧と旧地名「猪飼野」を歩く』 — 藤本氏とともに旧・猪飼野地域を散策
フィールドワークは、地図から失われた地名「猪飼野」の痕跡を現地でたどり、写真に写る風景と現在の風景を比較しながら地域に刻まれた歴史を現場で振り返ることを目的としています。写真に写された瞬間だけでなく、今日も変化を続ける地域の物理的な変容を体感するプログラムです。
また、展覧会およびプログラムの広報用ポスターが公開されており、展覧会のビジュアルやフィールドワーク、講演会の開催情報が示されています。詳細は主催者の案内を参照してください。
主催者の意図と展示が示す複層的な意味
駐大阪韓国文化院(院長 金蕙穗; キム・ヘス)は、本展の位置づけについて次のように述べています。「これまでの文化院によるディアスポラ関連の展示や講演、ドキュメンタリー制作などが資料収集や情報伝達に重点を置いていたとするならば、今回は芸術的な視点を加え、その中に流れる文化的連帯と交流を立体的に照らし出そうと試みました。」
同氏はさらに「詩と写真の融合を通じて、猪飼野の歴史と地域性をより鮮明かつ具体的に感じていただける機会となれば幸いです。」と述べています。これらの言及は、資料的検証だけに留まらない芸術的なアプローチを通じて、地域史の感受性や当事者の声の呈示を重視する姿勢を示しています。
展示は、個別の記憶を集積して地域史を描き出す試みであり、詩という言語表現と写真という視覚表現の交差により、来場者が時間の層を感得できるよう設計されています。企画の趣旨は、記憶の継承と新たな視点の提示にあります。
展覧会の要点まとめと開催情報
ここまでに述べた展示の主要な事実を表形式で整理します。続く表は日時、会場、出品点数、関連プログラムなど、本展に関する具体的なデータをまとめたものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 展覧会名 | 『金時鐘詩篇の風景、藤本巧写真展「猪飼野詩集」』 |
| 主催 | 駐大阪韓国文化院(院長 金蕙穗) |
| 会期 | 2026年4月9日(木)〜2026年5月12日(火) |
| 会場 | 駐大阪韓国文化院 1階 ミリネギャラリー |
| 出品点数 | 写真約60点、メディア作品5編、詩集『猪飼野詩集』(1978年)に収録の8編を軸とした展示 |
| 関連プログラム | 4月9日 開幕式、4月10日 記念講演会(藤本巧)、4月18日 フィールドワーク(藤本巧同行) |
| 作家・受賞歴 | 詩人 金時鐘(高見順賞2011、大佛次郎賞2015)、写真家 藤本巧(土門拳賞2020) |
| 基となる刊行物 | 金時鐘『猪飼野詩集』(1978年)、藤本巧『猪飼野残景』(2025年) |
| 関連URL | 駐大阪韓国文化院の案内ページ |
本展は、消えた地名とそこに生きた人々の記憶を詩と写真で可視化する展覧会です。会期中に行われる記念講演やフィールドワークは、展示が投げかける問いをより具体的に掘り下げる機会となります。展示の詳細や当日の情報については、主催者の案内を参照してください。