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“死んだふり”甲虫が示すパーキンソン病との遺伝的共通点

甲虫擬死とパーキンソン

開催日:3月17日

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甲虫擬死とパーキンソン
これはパーキンソン病の治療につながるの?
すぐに治療法になるわけではありません。甲虫で見つかったドーパミン低下や遺伝的対応関係は、発症メカニズム解明や治療標的探索のための基礎知見を提供するにとどまります。
どうして虫の“死んだふり”が人の病気と関係あるの?
擬死が長い系統で脳内ドーパミン低下や運動低下、ドーパミン関連遺伝子の変化が見られ、ヒトのパーキンソン病関連ゲノム領域と対応する変異が多数検出されたからです。

甲虫の「擬死」が示した意外な医学生物学的つながり

国立大学法人岡山大学(発表日:2026年4月29日)と東京情報大学、東京農業大学、玉川大学の共同研究チームは、コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)の「死んだふり(擬死)」行動に関する系統育種研究を通じて、ヒトのパーキンソン病に類似する生理学的・遺伝学的特徴を発見したと発表しました。

本研究は、擬死時間が長くなるように人為選択した甲虫系統を作出し、その生理データと遺伝子配列を解析することで得られたもので、昆虫モデルを用いた行動進化の研究が神経変性疾患の理解につながる可能性を示しています。

“動かない”進化の代償?~死んだふりをする甲虫が示すパーキンソン病との共通点~〔岡山大学, 東京情報大学, 東京農業大学, 玉川大学〕 画像 2

発表の背景と重要性

パーキンソン病はドーパミン作動性ニューロンの機能低下に伴う進行性の神経変性疾患で、運動障害を主症状としますが根本的治療法は未だ確立していません。本研究は、動かないこと(擬死)を長期間続ける甲虫に見られるドーパミン関連の変化が、ヒトのパーキンソン病と重なる点を系統的に示したものです。

昆虫という比較的単純なモデル生物を用いることで、行動変化と遺伝的変異の因果関係を追いやすく、希少かつ複雑な脳疾患研究の補完的なシステムとして有用な知見を提供します。

“動かない”進化の代償?~死んだふりをする甲虫が示すパーキンソン病との共通点~〔岡山大学, 東京情報大学, 東京農業大学, 玉川大学〕 画像 3

解析手法と主要な発見

研究チームは、1997年以降の長期にわたる観察と育種によって、擬死時間の長い系統と短い系統を確立しました。これらの系統について行動解析、生理化学的測定、およびDNA配列比較を実施しました。

解析の結果、擬死時間が長い系統では、以下の複数の特徴が確認されました。

  • 脳内ドーパミン量の顕著な低下。
  • 歩行や通常の運動活動における異常(運動低下)。
  • ドーパミン合成やチロシン代謝に関与する遺伝子群の発現変化。
  • ヒトのパーキンソン病に関連すると考えられるゲノム領域に対応する多数の変異の検出。

これらは、過去に報告されていた「ドーパミンを注射することで運動能が回復する」という所見と合わせて、擬死行動の長期化とドーパミン作動性の低下が連動していることを示唆します。

“動かない”進化の代償?~死んだふりをする甲虫が示すパーキンソン病との共通点~〔岡山大学, 東京情報大学, 東京農業大学, 玉川大学〕 画像 4

分子比較と系統発現の詳細

ヒトのドーパミン作動性経路に関与する遺伝子配列と甲虫ゲノムの対応領域を比較したところ、擬死が長い系統においてヒトのパーキンソン病関連ゲノム領域に対応する変異が多数見つかりました。これにより、行動進化と神経変性疾患を結びつける分子基盤の存在が示唆されます。

具体的には、ドーパミン合成経路やチロシン代謝に関係する遺伝子の発現量や配列多型が変化しており、これが行動表現型(長時間の擬死、運動低下)と整合している点が重要です。

“動かない”進化の代償?~死んだふりをする甲虫が示すパーキンソン病との共通点~〔岡山大学, 東京情報大学, 東京農業大学, 玉川大学〕 画像 5

論文掲載・著者・研究資金と研究組織

本研究成果は、2026年3月17日午後7時(日本時間)にSpringer Nature刊行のScientific Reportsにオンライン掲載されました。論文情報は以下の通りです。

論文名(英語)
Tribolium castaneum with longer duration of tonic immobility have more variations corresponding to the human Parkinson’s disease genomic region
邦題
死んだふり持続時間が長いコクヌストモドキ系統では、ヒトのパーキンソン病関連ゲノム領域に対応する変異が多く検出された
掲載誌
Scientific Reports
著者
Keisuke Tanaka, Ken Sasaki, Shunsuke Yajima, Takahisa Miyatake
DOI
10.1038/s41598-026-40050-3

共同研究機関は岡山大学(学術研究院環境生命自然科学学域)、東京情報大学、東京農業大学(生物資源ゲノム解析センター)、玉川大学(農学部)です。主導研究者は岡山大学の宮竹貴久教授で、共著者に田中啓介准教授(東京情報大学)、佐々木謙教授(玉川大学)、矢嶋俊介教授(東京農業大学)が含まれます。

研究は次の資金的支援を受けて実施されました。

  • 科研費 基盤研究B「ゲノム行動生態学:『生物の動き』を制御する遺伝子と個体の適応度及び集団への影響」課題番号23K21343
  • 科研費 基盤研究C「『動く・動かない』という生物の行動変異をもたらす選択圧の生態学的解明」課題番号25K09771
  • 東京農業大学生物資源ゲノム解析センターの「生物資源ゲノム解析拠点」の支援
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宮竹教授のコメント

宮竹貴久教授は1997年以降、死んだふり行動の研究を継続してきた経緯を説明し、長時間擬死を呈する系統が日常的にあまり動かない点に着目したこと、脳内ドーパミン欠乏が関連していることを共同研究で突き止めた過程を述べています。

教授はこの研究が「人の暮らしに直接役立つように見えない」とされる基礎研究が、最終的にヒト疾患の理解につながる例を示していると述べています。

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情報の入手先、連絡先、参考資料とまとめ

研究の詳細資料およびプレスリリースPDFは岡山大学の公開ページで確認できます。関連する過去の研究や広報情報も複数掲載されており、研究の継続的な文脈を把握することができます。

本件に関する問い合わせ先は、研究に関するものと報道や連携に関するものが明確に分かれています。企業や医療機関向けの連携相談窓口も設置されています。

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主な問い合わせ先(原文の表記に基づく)

担当 組織 連絡先
研究に関すること 岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域(農) 教授 宮竹貴久 住所:〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス
TEL:086-251-8339 / FAX:086-251-8388
Web:https://sites.google.com/view/miyatake/home
報道に関すること 東京情報大学 企画調整課 TEL:043-236-4704 / FAX:043-236-2601
報道に関すること 東京農業大学 学長室 企画広報課 TEL:03-5477-2650 / FAX:03-5477-2804
報道に関すること 学校法人玉川学園 教育情報・企画部 広報課 TEL:042-739-8710 / FAX:042-739-8723
岡山大学病院との連携(製薬・医療機器) 岡山大学病院 新医療研究開発センター http://shin-iryo.hospital.okayama-u.ac.jp/ph_company/
岡山大学 病院連携(医療関係者) 研究推進課 産学官連携推進担当 TEL:086-235-7983
E-mail:ouh-csnw◎adm.okayama-u.ac.jp(◎→@に置換)

参考・関連情報

プレスリリース原文(岡山大学):https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1510.html。研究の詳細PDFも公開されています(https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r7/press20260317-1.pdf)。

また、関連する岡山大学の過去の研究や広報記事(死んだふり行動の遺伝子発見、緯度差に基づく行動差、捕食回避戦略のゲノム解析など)も参照可能です。これらは本研究の位置付けを理解するうえで補助的な資料となります。

本記事の主要ポイント一覧
項目 内容
発表日 2026年4月29日(岡山大学プレスリリース)
掲載誌 Scientific Reports(オンライン掲載:2026年3月17日)
論文DOI 10.1038/s41598-026-40050-3
主な著者 Keisuke Tanaka, Ken Sasaki, Shunsuke Yajima, Takahisa Miyatake
対象生物 コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)
主要発見 擬死時間の長い系統で脳内ドーパミン低下、運動異常、ドーパミン合成やチロシン代謝遺伝子の発現変化、およびヒトのパーキンソン病関連領域に対応する変異の多発
研究資金 科研費 基盤研究B(課題番号23K21343)、基盤研究C(課題番号25K09771)、東京農業大学ゲノム解析拠点の支援
主要連絡先 岡山大学 宮竹研究室(TEL:086-251-8339)ほか(本文参照)

本稿は岡山大学および共同研究機関が公開したプレスリリースの内容に基づき、研究の目的、手法、得られた結果、論文掲載情報、資金・問い合わせ先等を網羅的に整理して伝えることを目的としています。研究は昆虫モデルを介した行動進化と神経変性の関連性を示すものであり、今後の基礎・応用研究の橋渡しとなる可能性があります。