世界狂犬病デー (記念日 9月28日)

世界狂犬病デー

毎年9月28日の世界狂犬病デーは、狂犬病ワクチンを開発したフランスの細菌学者ルイ・パスツールの命日に由来します。パスツールは1895年にこの世を去りましたが、彼が生涯をかけて追い求めた感染症研究の遺産は、今日も世界中で数万人もの命を救い続けています。

この国際デーを制定したのは、アメリカとイギリスに本部を置く非営利団体・狂犬病予防連盟(Global Alliance for Rabies Control:GARC)です。2006年に発足したGARCは、翌2007年以降、世界各地でイベントを開催し、狂犬病の教育活動や犬への予防接種の普及に取り組んできました。国連の記念日にも指定されており、世界保健機関(WHO)、国際獣疫事務局(OIE)、世界獣医学協会(WVA)など複数の国際機関にも承認されています。

狂犬病は狂犬病ウイルスを病原体とする人獣共通感染症であり、発症後の致死率はほぼ100パーセントです。現在も年間推定5万〜6万人が命を落としており、その大半はアフリカやアジアの農村部に集中しています。野良犬・愛玩犬を問わず予防接種が行き届いていない地域では、感染した犬に咬まれることが主な感染経路となります。日本国内では狂犬病の発生は極めてまれですが、海外渡航者が現地で感染して帰国後に発症した事例が過去に報告されています。

パスツールが狂犬病ワクチンを初めて人に投与したのは1885年のことでした。当時9歳のジョゼフ・マイスター少年が感染した犬に噛まれ、瀕死の状態でパスツールのもとに連れてこられます。パスツールは完成途上のワクチンを少年に投与する決断を下し、少年は一命を取り留めました。このエピソードはワクチン医学史における象徴的な出来事として語り継がれています。

パスツールの業績は狂犬病にとどまりません。牛乳やワイン、ビールの腐敗を防ぐ低温殺菌法(パスチャライゼーション)の開発者として知られるほか、炭疽菌やコレラ菌の研究でも大きな功績を残しました。炭疽菌・結核菌・コレラ菌の発見で知られるドイツの医師ロベルト・コッホと並び、「近代細菌学の開祖」とも称されます。「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」という彼の言葉は、普遍的な知の追求と国家への帰属意識が共存する科学者の矜持を端的に表しています。

日本では毎年9月28日前後に、狂犬病臨床研究会が主催し厚生労働省が後援するシンポジウムが開催されます。狂犬病は発症前のワクチン接種によって確実に予防できる感染症であり、世界狂犬病デーはその認知拡大を目的とした取り組みです。